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2016.02.01 13:55

漁業・漁村の公益的機能(5) 保養・交流・学習の機能

○漁業・漁村の公益的機能(5) 保養・交流・学習の機能

乾 政秀(18製大)

 日本は四方を海に囲まれた島国ですから、日本人にとって海は身近で親しみを感じる場所のようです。以前、JF全漁連が実施したアンケート調査によりますと、約70%の人が海に「親しみを感じる」と回答し、「ある程度親しみを感ずる」を合わせますと、肯定的な人が95%に達しました。また、直近1年間に漁村を訪れたことがあると回答した人は60%近くに及んでいました。

 このように多くの日本人は海や漁村と関わりをもっています。その関わり方の内容は、海洋性レクリエーション、都市と漁村の交流、学習・体験活動の3つに分類できそうです。

 先ず海洋性レクリエーションですが、3つのタイプに分類できます。第1は親水アメニティタイプで、海水浴、磯遊び・浜遊び、散策、海辺でのキャンプなどです。2番目が遊漁タイプで、船釣り、岸釣り(磯、浜岸壁など)、潮干狩りです。親水アメニティタイプと遊漁タイプは日本人が親しんできて伝統的な海の利用活動です。3番目が国民経済の発展とともに登場したスポーツタイプで、プレジャーボート(ヨット、モーターボート、水上オートバイ)、ダイビング、ボードセーリング、サーフィン、シーカヤックなどがあります。

 それぞれの利用実態を見て行くことにしましょう。2003年漁業センサス時までは、農水省により海水浴客、遊漁に関するデータがとられていましたが、残念ながらその後のデータがないので、ここでは2003年漁業センサス時のデータを示しておきます。この当時、海水浴場は1,441カ所、年間の利用客数は4,231万人でした。遊漁客の年間延べ利用者は船釣が6,188万人、磯・浜釣が1,540万人、岸壁・防波堤釣が1,997万人、潮干狩りが2,239万人でした。また、遊漁案内業者は合計16,877業者でうち、漁業者が14,713人で全体の87.2%を占めていました。長期化したデフレによる経済低迷と所得の伸びの鈍化から、釣り客は減少傾向にあると言われてはいますが、依然として遊漁は国民の手軽な海洋レクリエーションになっています。

不況の影響はプレジャーボートにも現れていて、モーターボート、ヨット、水上オートバイを合わせたプレジャーボートの保有隻数は2000年の約40万隻をピークに減少し、2014年には25万隻ほどに低下しています。水上オートバイはほぼ1万隻で横ばいですが、ヨット、モーターボートの保有隻数はピーク時の6割の水準になっています。ちなみに小型船舶免許の受有者はこれまでの類型で300万人を超えていますが、失効者がそのうちの半分を占めているようで、実際の所有者は150万人程度と言われています。また、スキューバダイビングをするためにはCカードと称する認定証が必要ですが、このカードの発行枚数はダイバーレベルで毎年8万人程度、インストラクタークラスで毎年1万人ほどで、これまでの累積発行数は100万人になります。Cカード取得者のうち何割が現役でダイビングを楽しんでいるかわかりませんが、少なくともスキューバダイビング歴のある人は国民の1%ほどに達しています。ダイビングもひところのブームが去っていますが、安定しています。何れにしてもスポーツタイプの海洋性レクリエーションも着実に国民の間に定着しているのは確かです。

 次に、都市と漁村の交流を見ておきましょう。交流は、漁村に出かけて、「水産物を買う」「伝統行事や祭り、イベントに参加する」「漁師レストランで食べる」「漁師民宿や漁村に泊まる」などを通じた活動です。

水産物の直売所は年々増加しております。2013年漁業センサスによりますと、水産物の直売所は247の漁協が311施設で運営し、年間の延べ利用者は1,359万人でした。漁協運営の他に、海の近くの道の駅やJAの直売所でも新鮮な水産物が売られていますので、実際の利用者はこの数値の数倍に及ぶでしょう。全国には様々な港祭りや市場祭りがあります。こうしたイベントへの参加者は延べ7,000~8,000千万人に及ぶと推定されます。また千葉県保田の「ばんや」や鹿児島県東市来の「蓬莱館」など漁協直営の著名なレストランも定着し、多くの国民が利用するようになっています。漁業者が兼業で営む民宿は、2013年漁業センサスによりますと1,190軒、漁村にはこの他に漁業者から直接水産物を仕入れ、地元産のさかな料理の提供を「売り」にしている宿泊施設もたくさんあります。

学習・体験活動は、漁業体験、漁村体験、環境学習、市場見学、調理体験など様々です。2013年漁業センサスによりますと、漁業体験を行った漁協は234組合で、年間の延べ参加者は12.6万人でした。最近は中学生や高校生が漁師の家に民泊し、地元が用意した様々な体験メニューを選ぶ体験型修学旅行も増えています。長崎県の松浦体験型旅行協議会のように年間3万人の修学旅行生を受け入れるところも出てきました。環境学習では、稚魚放流、アマモ場造成、タイドプールの生物観察、ホエールウオッチングなどが行われています。東京都の御蔵島では、イルカと一緒に泳ぐエコツアーが人気を集めています。もちろんガイドは漁師で、利用する船も地元漁船です。調理体験では、魚食普及活動への参加、魚のさばき方教室、蒲鉾づくりなど様々です。ちなみに魚食普及の活動は、2013年漁業センサスによりますと310組合が実施して延べ参加者は61万人でした。

以上述べてきました国民の活動はキャンプやサーフィンなどのように直接、漁業・漁村と関連しないものも確かにありますが、多くの活動は漁業とそれを支える漁村の存在があってはじめて成立するものですし、あるいは活動の水準を向上させる役割を果たしています。つまり、日本に漁業と漁村が存在することによって、国民に保養、交流、学習の機能を提供しているのです。


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