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2019.08.30 15:45

我国のIWC脱退 ~メルマガ121号を読んで~

岩澤龍彦(13増大)

 我国は1951年以来IWCに加盟してきたが、2019年6月30日をもって同条約を脱退した。IWC(捕鯨業の秩序ある発展を目的とする国際捕鯨条約)には約70か国が加盟しており、このうち捕鯨賛成27か国、反対41か国である。

 かつて、世界的な地球環境保護の意識の浸透と共に1970年代に鯨保護の機運が高まり、反捕鯨国が相次いでIWCへ加盟し、1982年に商業捕鯨一時中止(モラトリアム)が採択された。以後、禁止の見直し論もあったが商業捕鯨は再開されていない。
 その後、我国は1987年から調査捕鯨(条約に認められている)を行って南氷洋等の鯨資源の状況等を把握し、これをIWCに報告してきた。その結果、鯨の種類によっては十分に増加しているもの(ミンククジラ等)も出てきたが商業捕鯨の再開は認められていない。
 というのは、IWCでは拘束力のある全ての取決めは3/4以上の賛成票を必要とするルールがあり、このため1度決定された事柄を改定することは極めて難しく、商業捕鯨の再開を決議するために3/4の賛成票をとるのも極めて難しい。 商業捕鯨中止以後、我国ではIWC脱退論はかなり以前からあったものの決断されずにきたが、アイスランドやノールウエーは異議申し立てを行って捕鯨を実施している。

 IWCを脱退すると南極海での捕鯨や調査捕鯨も実施できないことになるが、我国は脱退後は日本の領海や経済水域で鯨資源の持続を考慮しながら適正な捕鯨を再開することにした。
 商業捕鯨中止が30年以上続いているため、世界の海洋では鯨類の多くが増加し、これらの鯨類が捕食する魚類資源量は人類の漁獲量を超すと言われ漁業に少なからぬ影響が出ている。我国でも例えばいか釣り漁船の集魚灯に鯨がイカを求めて集まるために操業出来ない漁船が増えて漁業者を悩ましている。
 最近では東京湾にザトウクジラが迷いこんだり、鎌倉の海岸にナガスクジラが漂着したり、あるいは船舶が鯨と衝突する事故が増える等のニュースが珍しくない。

 世界の人口は現在約76億人で2050年には97億人を超えると言われている。これに伴って食糧生産も増加中であるが、地球上の有効な水資源量が一定量なので穀物収穫量の増加は限定され、将来人口が増加する中で厳しい食糧不足が予想される。これに関連して水産資源に対する動物蛋白資源としての需要が高まり、その中で鯨は重要性が見直されることも予想される。
 我国はかって23万トン(1962年)の鯨肉消費があったが、現在は約5千トンに減少している、これらは調査捕鯨の副産物やノールウエー等から輸入に依存している。
 商業捕鯨が再開されたが、新鮮な鯨の生肉および冷凍肉が水揚げされてリーゾナブルな価格で出回れば、我国のグルメ事情に色を添えると共に需要拡大が期待される。
 我国の食文化の長い歴史をみれば私が子供だった頃のように鯨肉が食卓の主役の一角を占めることは無いにしても、かっての鯨食世代が多数残存していることでもあり、存在感のある食卓の脇役として鯨肉が相応の役割を果たすことを期待したい。

 公表されている商業捕鯨の操業拠点は網走、釧路、八戸、石巻、和田浦(南房総市)、太地、下関の7地区だが、これらはいずれも昔から捕鯨に関係する地域である。商業捕鯨再開というパワーが地方の産業へ貢献して縮小しつつある我国水産業の裾野を維持する役割を果たすことも期待するものである。

 最後に、厳しい食糧不足にさらされる将来の人類のために、鯨の捕獲方法(母船式捕鯨等のハード・ソフトの操業システム)から鯨肉の流通加工、調理方法までの、言わば鯨食文化とも言うべきものの普及と継承の重大な責任を我国は負わされていると言える。

 

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