海洋マイクロプラスチック研究の現状とこれから
荒川 久幸(34海工23修3博)
本年6月に開催されたG20において、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンが採択され、海洋のプラスチックごみ対策を各国で行うことを合意しました。2050年に海洋への流出量をゼロにすることを目標としています。今や喫緊の課題として世界中でさまざまな取り組みが進められています。ここでは、海洋マイクロプラスチックの概略、研究の現状と今後の問題点を解説します。
プラスチックは、様々な利点があることから世界中で幅広く利用され、年間31000万トン生産され、そのうち800万トンが海へ流出するとされています。そして、このまま流出量が増え続けると2050年には海洋プラスチックの量が魚の量を超えると報告されたため、大きなインパクトのある関心事となりました。
海へ流出したプラスチックは、紫外線、温度変化、波などの物理的作用によって劣化が進み次第に小さな粒子になっていきます。5mm以下となったものをマイクロプラスチックと定義しています。言葉で書くとこの過程は単純に聞こえますが、現場の海域では粒子の挙動が非常に複雑なため、劣化の過程の理解があまり進んでいません。
海へ流出したプラスチックといっても、様々な種類があります。主なものはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などです。PEとPPはその比重が水より軽いので壊れても浮いていますが、PET は水より重いので次第に沈みます。またPEやPPも生物が付着すると重くなり沈むとされています。それぞれのプラスチックの劣化は、海面付近にあると紫外線や水温変化で早く進みますが、海底ではゆっくりとなります。このように材質や環境で壊れ方が大きく異なってきます。
海面のマイクロプラスチックの分布をみてみますと、極域から低緯度の海まで世界中の海域でマイクロプラスチックが見つかっています。その濃度は、東アジアの国々の周辺海域で最も高いとされています。
次に、これらが海洋に分布していると何が問題なのでしょう?プラスチックを間違って捕食する海洋生物の成長や生残への影響が、まず考えられます。死亡したウミガメや海獣類の胃の中に多量にプラスチックが見つかったというニュースをときどき目にします。またマイクロプラスチックが多くの魚類、貝類、海鳥の消化管から見つかっています。さらにPOPsと呼ばれる発がん性のある難分解性有機汚染物質が、海を漂っている間にプラスチックに吸着し、それが食物連鎖で濃縮し、ヒトの体へ入ってくるのではないかと心配されています。
では、我々はどうすればよいのでしょうか?環境省のHPでは、3R (Reduce, Reuse, Recycle)を提唱しています。レジ袋の削減は、プラスチックのReduce対策の象徴の一つとしてまず取り組みが始められています。使用量を減らしていけば、海に流出する量も削減できるはずです。ごみの総量から言えばペットボトルなども膨大ですので、いずれ何かしらの対策が必要でしょう。
ここまで、わかっていることや現状での取り組みを紹介してきました。しかし、実際にはわからないことだらけです。第1に海に分布しているプラスチックごみの総量が正確に分かっていません。第2に生物がどれだけの影響を受けるのか、また現在受けているのか、はっきりしません。
第1に関しては、従来の調査法では、ニューストンネット(網目350µm)を使っているため、それより小さなサイズの粒子の分布が不明です。また毎年多量に流出しているはずなのに海域でのプラスチック濃度が想定するほど増加していないとの報告もあります。これらを明らかにしていくためには、微細なプラスチックも含めた詳細な濃度分布の把握と、プラスチックごみの海洋での微細化のメカニズムを解明しなければなりません。
第2に関して、微細になったプラスチック自身の悪影響についての報告はまだみられません。またプラスチックに吸着したPOPsの現場の生物への影響も全く分かっていません。これらが明らかになってくると具体的な対策にもつながっていくものと思われます。
思い返せば以前の飲料の自動販売機には、缶しかありませんでした。いまではほとんどがペットボトルです。日本では年間200億本以上のペットボトル生産があります。このうち90%がリサイクルに回り(リサイクルといっても多くはサーマルリサイクルといって焼却場の燃料として使われています。)、10%が回収されていません。まずはこの使用量の削減から始めていきましょう。(楽水会理事 東京海洋大学教授)