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2020.04.01 18:57

『漁業と国境』(濱田武士・佐々木貴文著 みすず書房 2020年1月発行)の案内       濱田 武士(特別会員)

濱田 武士(特別会員)

 本書は、『漁業と国境』というタイトルですが、「漁業と国家」あるいは「漁民と国家」の関係を、国境水域における漁業に焦点を当てて説いたものです。

 日本は、ロシア、北朝鮮、韓国、中国、台湾など近隣諸国のどことも、海の上の国境ともいえる「境界画定」の合意がなされていません。境界画定に至らないのは、それぞれの国と日本が主張する境界線が異なり、その相違を解決できていないためです。そこには「島」の帰属問題も関係しています。周知の通り、北方四島、竹島(韓国名:独島)はロシア、韓国に実効支配されています。尖閣諸島(中国名:釣魚群島、台湾名:釣魚台列嶼)は日本が実効支配しているものの、その周辺水域は中国船(漁船、公船)が出没するなど穏やかな海ではありません。一方で、先島諸島の北側では、台湾が主張していない日本のEEZなのに、台湾漁船が合法的に操業できる水域がもうけられています。

 こうした状況について、我々は誰のためにどのように理解していけば良いのか。その1 つの答えが「漁民と国家」だったわけです。そして、国境水域の日本漁業を近現代史から見つめ直し、今日の国際関係と国境水域の漁業問題を把握するとともに、日ロ・日朝・日韓・日中・日台などの漁業外交の経緯と内実に踏み込みながら、素描することに努めました。

目次構成は以下のようになっています。

第一章 外洋漁業の近現代史

第二章 北方水域──各国混戦の北太平洋漁場とロシアが重点化する北方領土

第三章 日本海──竹島=独島と日・韓国・北朝鮮の攻防

第四章 東シナ海 ──失われた日本漁業の独擅場と尖閣諸島問題

第五章 南洋──アメリカの海は「中国の海」になるのか

終章 領土問題が固定化するなかで

 日本が外国漁船に取り囲まれたのは今に始まったことではありません。近世末期には、欧米列強の捕鯨船や猟虎膃肭臍の狩猟船が接近していました。近代技術を持たない日本はどうしようもありませんでした。明治は日本が国家として飛躍した時期です。それでも漁業は非力でした。漁業が強化されるのは明治30年の遠洋漁業奨励法を制定以後です。政府は欧米漁業技術・造船技術のキャッチアップにより漁業生産力の強化を図りました。さらに、日本は日清戦争・日露戦争、第一次世界大戦を経て「外地」を広げ、漁業権益は国境を越えて広がっていきました。版図の膨張に伴い、海がある、その最前線には「日本漁民の姿あり」となりました。第二次世界大戦では、漁船も漁業者も、戦争に協力し、大きな損害を被りました。

 第二次世界大戦敗戦後、日本漁業は急速に復旧しましたが、マッカーサーラインによって水域を抑制され、またマッカーサーライン撤廃後も、日米加漁業条約、李承晩ラインの設定、ブルガーニンラインの設定に伴う日ソ漁業協定など国際的に制約されました。韓国と中国とは国交回復後、事実上、韓中近海域において日本漁船の操業を抑制する漁業協定が締結されました。200海里体制に入ってからは、日本漁船は沿岸国の水域から閉め出されていきました。しかし、隣国と新たな漁業協定を締結することで入漁を続けました。「日ソ地先沖合漁業協定」、「日朝民間漁業協定」などです。1996年の国連海洋法条約批准後は、日本はEEZを設定しましたが、隣国との境界画定は進まず、「新日中漁業協定」、「新日韓漁業協定」などの漁業協定を改めて締結することで混乱を防ぎました。

 しかし、それらの協定をもって問題が解決したわけではありません。日本が主張するEEZのなかには、隣国も主権を主張する水域が重なっています。国家間の主張がぶつかる「問題水域」が形成されています。漁業外交と漁業協定で一定のルールが構築され、トラブルが頻発しないようにはなっていますが、勢力が強まる隣国漁船の勢力に日本漁船は負けて、問題水域では日本漁船の漁場利用がままならないです。日本の近海水域の外側が外国漁船に囲まれてしまった結果、隣国の主権が及ばない日本単独のEEZをどう守っていくが、今日本政府ができること、になっています。

 さて、結論的なことはここでは触れません。
出版社の公式Web(https://www.msz.co.jp/topics/08870/)で確認してください。その上で、本書のセールスポイントを最後に記したいです。

 筆者らは、隣国に渡り、隣国の状況についても現地で調べたことです。北方領土にも渡航しました。最新鋭の設備を備えたロシア最大と言われる漁業コンビナートも見て、話を聞いてきました。韓国、台湾では領土問題も含めて漁民から率直な話を聞くことができました。北朝鮮には渡航できませんでしたが、朝鮮水域に出漁していた船団と北朝鮮との関係もリアルに知ることができました。これらを念頭に、緊張関係にある国際関係の裏側で、現実的な「漁業」があるという話を浮き彫りにしました。

 ご関心のある方、是非一読をしていただき、ご感想や批評などをいただければ幸いでございます。

 なお、本書は、水産経済新聞(1月23日)、日本経済新聞(2月29日)、琉球新報(3月1 日)、週刊東洋経済(3月7日号)の書評欄に取りあげられて、紹介されました。

(北海学園大学 教授)

琉球新報

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1083026.html?fbclid=IwAR0XiMLouG_F3-7II9uTQxQ4u

東洋経済

https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23084?fbclid=IwAR3fojDi_pie0KQLPowFKo7YbLox

 

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