2022年 新春のご挨拶
学長 井関 俊夫(特会)
昨年もこれまでと変わらず、本学ならびに本学学生に温かいご支援を賜り誠にありがとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
この原稿を執筆している時点では、東京都内の新型コロナウイルス新規感染者数はかなり少ない状態を維持しており、ウイルス感染の第6波は来ないのではないかと思いたくなります。このまま終息に向かうことは難しいとしても、再び学生の人構制限や対面授業の自粛といった事態にならないことを祈ります。
さて、新年のご挨拶を兼ねて、学内の新しい取り組みについてご報告申し上げます。本学校友会のウェブページ上でもお知らせしましたが、昨年の11月から「海洋アントレプレナーシップ養成セミナー:海の起業論I」を開始しました。イノベーション創出担当副学長の婁小波先生主導のもと、海洋政策文化学部門の中原尚知先生、産学・地域連携推進機構の川名優孝先生・設樂愛子先生をはじめ、その他関係の先生方には年度当初から講義内容を献身的に検討していただき、年内の開講を実現していただきました。このセミナーでは、海洋産業領域での新規事業創出やNPO法人等の設立などに必要となる基礎知識を得るために、計15回の特別講義が行われます。
対象は本学の学部・大学院を含めた全学生で、今年度は試行という位置づけで単位は付与されませんが、予想を上回る人気を博しており、定員50名のところ、約140名の受講申し込みがあったそうで、「起業」に興味をもつ学生がいかに多いかを改めて実感いたしました具体的な講義内容は、
第1回 ガイダンス~現代社会と海洋・水産とアントレプレナー
第2回 企業の諸形態と仕組みを知る
第3回 事業を知る(事業コンセプト、事業システム、事業環境分析)
第4回 マーケティングを知る
第5回 事業アイデアを生む~IDEATION FACTORY ①
第6回 事業アイデアを生む~IDEATION FACTORY ②
第7回 企業の財務を知る(税務会計、財務関係、管理会計)①
第8回 企業の財務を知る(税務会計、財務関係、管理会計) ②
第9回 人材マネジメントとコミュニケーションを知る
第10回 ビジネスプランコンテスト(中間発表)
第11回 企業の法務を知る(登記、契約、コンプライアンス、訴訟)
第12回 企業の資金調達を知る~出資、融資、クラファン、補助金~
第13回 企業の知財戦略を知る~侵害しない・されないために~
第14回 ビジネスプランコンテスト(最終発表)
第15回 セミナー総括およびビジネスプランコンテストの表彰
のようになっており、私自身も第1回目の中原先生の講義を聞かせてもらいました。講義では、経済学者シュンペーターが提唱する「起(企)業家(entrepreneur)」についての解説が行われました。シュンペーターによれば、起業とは事業やその実施主体となる組織を創造することであり、事業とはイノベーションによって新しい社会的価値を創造し、社会に提供することである。そして、社会に継続的に貢献できれば、事業を実施する組織は社会に必要とされている(生き残れる)ということだそうです。「アントレプレナー」を単なる「起業家」と理解していた私には、目の覚めるような感覚とともに、アントレプレナーシップ教育の重要性を再認識した講義でした。
文部科学省においても、産学官連携支援事業として「全国アントレプレナーシップ人材育成プログラム」が実施されています。そこでは「様々な困難や変化に対し、与えられた環境のみならず自ら枠を超えて行動を起こし新たな価値を生み出していく精神(アントレプレナーシップ)を育むことが重要」とされています。
また、大学にアントレプレナーシップ教育を期待していることは、2018年に中央教育審議会から出された「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」答申や2019年に出された文部科学省「国立大学改革方針」からも読み取れます。それらのなかでは、国立大学の役割の一つとして「知識集約型社会において知をリードし、イノベーションを創出する知と人材の集積拠点」となることがあげられています。本学においても、イノベーション創出によって新しい社会的価値を創造するアントレプレナーシップ教育を「知と人材の集積拠点」となるための取り組みの一つとして位置づけたいと思っています。
「海洋アントレプレナーシップ養成セミナー:海の起業論Ⅰ」の講義スケジュールのなかでは、ビジネスプランコンテストも計画されています。学部・学科・専攻を超えて、学生たちが自由にグループを作り、「社会を豊かにする」あるいは「社会の問題を解決する」といった目標の下で、互いに協力し合い、ビジネスプランのプレゼンテーションを行う姿を早く見たいものです。そして、卒業後には、少子高齢化、労働人口の減少という困難な状況の下で、SDGsやカーボンニュートラルといった喫緊の課題を解決していく頼もしい人材になってほしいと思います。この新しい取り組みを推進するにあたって、楽水会会員の皆様からのご助言,ご支援を賜りましたら幸甚に存じます。