凍結装置性能評価プロジェクト
山下 将大(5海食品)
皆さま、こんにちは。一般社団法人食品冷凍技術推進機構の山下と申します。
弊社は東京海洋大学名誉教授の鈴木徹(27食工)が代表理事を務め、食品冷凍の「正しい価値」を社会に届けることを目的に2023年に設立された団体です。
冷凍技術の標準化や評価手法の開発、人材育成などを通じて、業界の発展と持続可能な社会に貢献する活動を行っており、その活動の柱の一つとして、このたび「凍結装置性能評価プロジェクト」を開始しました。食品用凍結装置の性能を科学的に比較できる共通基準を整備し、2026年度から認証制度として運用を開始する予定です。2025年8月19日には記者会見を行い、多くのメディアに取り上げていただきました。
今回は、本プロジェクトの概要についてご紹介します。
◆世界初 ―食品用凍結装置の公正な性能評価確立へ―
一般社団法人食品冷凍技術推進機構(以下「FF Tech」)は、国内の主要な凍結装置メーカーとコンソーシアムを組み、「凍結装置性能評価プロジェクト」を推進してまいりました。
本プロジェクトでは、食品用凍結装置の性能を科学的かつ客観的に比較できる業界共通の評価基準を確立し、その基準に基づいた認証制度を創設することで、装置選定の信頼性向上を図ります。2023年のFF Tech設立当初より、世界に前例のない独自事業として構想し推進してきたもので、各社が独自基準で行ってきた凍結装置の性能評価を、科学的根拠に基づく統一基準で行える仕組みの確立を目指しています。現在は実証研究段階にあり、2026年度からの評価制度運用開始を目指しています。

◆プロジェクトの背景:装置選びを難しくしてきた“ものさし”の欠如
近年、食品の冷凍技術への注目が高まる中、大きな課題となっているのが、「何をもって性能の良し悪しを判断するか」を示す業界共通の基準の不在です。各メーカーが独自基準で性能を評価し提示している現状では、ユーザー(食品メーカー等)が科学的根拠に基づいた適切な選択を行うことが困難でした。
「良い凍結装置」を見分ける統一的な物差しがないのが現状で、実際、凍結装置導入後に「当初想定していたものとは違っていた」といった問題が顕在化しており、業界全体での透明性の高い評価基準の確立が求められていました。

評価の仕組みは、装置性能+食品品質の二本柱で成り立ち、評価手法は下記の通りに大きく二つの軸で構築されています。
1. 装置の機械性能評価
冷却速度や処理能力、温度分布などを定量的に測定。特に食品品質に直結する「0℃~-5℃」「10℃~-15℃」の通過時間を主要指標としています。試料には、凍結特性が牛肉赤身に近い「タイロースゲル」を採用し、条件を統一することで公平性を確保しました。
2. 食品側の品質評価
解凍時のドリップ量や食感評価に加え、氷結晶サイズの観察も盛り込む予定です。これにより、装置性能だけでなく実際の食品品質まで含めた総合評価が可能となります。2027年度には両者を統合した新たな評価システムが完成予定です。

◆認証制度の運用開始に向けたプロジェクトの進捗状況
● 2023年11月:プロジェクト開始、課題整理と方針決定
● 2024年10月:評価手順書の一次案策定完了
● 現在:各メーカーでの第一回の評価実験を実施中
● 2026年1月:評価制度の実運用開始予定
◆公正性と国際的評価
制度の信頼性を担保するため、FFTechは学術・産業の専門家による第三者委員会を設置しました。評価の妥当性を厳正に審査し、公正性を担保しています。さらに国際冷凍学会の権威であるアラン・ル・バイル教授からも「世界的に意義深い取り組み」と高い評価を受けており、日本発の基準が世界標準となることへの期待が寄せられています。
第三者委員会:以下の専門家によって構成されています
委 員: 鶴田 隆治(西日本工業大学 学長)
委員長: 渡辺 学 (東京海洋大学 学術研究院 教授)
委 員: 荒木 徹也(東京大学 農学国際専攻 准教授)
委 員: 安藤 泰雅(農研機構 食品研究部門 主任研究員)
委 員: 工藤 謙一(中央大学 研究推進支援本部 シニアURA)
委 員:古橋 敏昭(FFTechアドバイザー/元 テーブルマーク株式会社)
アラン・ル・バイル教授からの推薦コメント
I nd that this initiative is very relevant and should be useful for the food industry. The Freezing Equipment Evaluation Project led by FFTech is a pioneering initiative that will promote transparency, standardization, and innovation in the eld of food freezing technology. I fully support this important initiative and look forward to its global impact.
(訳)「本取り組みは非常に意義深く、食品業界にとって有用であると感じています 。FFTechが主導するこのプロジェクトは、食品冷凍技術の分野における透明性、標準化そしてイノベーションを促進する先駆的な試みです 。私はこの重要な取り組みを全面的に支持するとともに、その国際的なインパクトに期待しています」


◆参画コンソーシアム企業と社会的ひろがり
参画企業はフクシマガリレイ(株)、タカハシガリレイ(株)、(株)コガサン、サラヤ(株)、大陽日酸(株)、(株)前川製作所など、いずれも日本を代表する凍結装置関連メーカーであり、基準策定において主導的役割を果たしています。

本プロジェクトの発表にあたり、2025年8月19日(火)には記者会見を実施し、コンソーシアム参画企業各社とともに取り組みの意義や今後の展望について説明を行いました。
今後、本プロジェクトの本格運用にあたって、凍結装置メーカー各社の新規参画を広く募集しています。

(写真左より)フクシマガリレイ 本間睦取締役技術本部長、前川製作所 稲葉稔和執行役員、食品冷凍技術推進機構 鈴木徹代表理事、サラヤ 木原綾大課長、太陽日酸 多畑英治山形ソリューションセンター所長
◆期待される効果と今後の展望
認証制度の普及により期待されること
1、メーカー側は信頼性の高い性能表示が可能となり、国際競争力を強化できる。
2、ユーザー側は科学的根拠に基づいた装置選択により、導入リスクを大幅に減少できる。
3、業界全体としては、冷凍食品の品質向上、フードロス削減、持続可能な食資源活用が期待できる。
さらに将来的には、評価基準をJISやISOといった国際標準に発展させる構想もあり、国際会議や海外機関との連携を通じて「日本発の世界基準」として普及させていくことが期待されています。
◆一般社団法人食品冷凍技術推進機構(FF Tech)について
当機構は研究と事業の間をつなぐ橋渡し役として、食品冷凍の現場に必要な標準化・評価技術の開発や、実装支援、人材育成、政策提言などの活動を行っています 。
今回詳細を発表した凍結装置性能評価プロジェクトは、単なる産学連携による学術的な取り組みにとどまらず、将来的にはFF Techが独自に運営する評価制度として、継続的な“事業”としての展開を目指しています 。
評価制度の制度化と実装を通じて、食品冷凍分野における透明性・信頼性を高め、業界全体の品質向上に寄与してまいります 。
一般社団法人食品冷凍技術推進機 事務局