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2016.11.29 13:52

Deep NINJAについて

嶋田 萌由(43修)

 昨今海洋観測分野で、アルゴ計画が注目されるようになってきました。アルゴ計画では全球にプロファイリングフロートと呼ばれる装置を投入し、観測を実施します。鶴見精機では深海用プロファイリングフロート‘Deep NINJA’の製造販売を行っており、アルゴ計画に密接に関連しています。このような経緯からか、OGであり鶴見精機に勤務している私に、今回原稿執筆のお声掛けをいただきました。私はDeep NINJAの開発初期に加圧試験を担当したきりで、現在の製造業務には携わっておりませんが、担当者の協力を得て、僭越ながら以下にご紹介致します。なお、装置の詳細は他に譲るとし、ここは一般人の目線からの紹介となること、お含みおきください。

 2000年に運用開始された国際プロジェクト、アルゴ計画。気候変動のメカニズム解明のため、海洋中層2000mまでのリアルタイム観測網を構築し、全球で3000台以上のプロファイリングフロート(アルゴフロート、中層フロート)の稼働を維持しています。

 中層流に漂い、決められた時間間隔で水温・塩分を計測し、海面に浮上して衛星にデータを送る、これを電池の続く限り行うのが一般的なアルゴフロートです。近年、アルゴ計画の甲斐もあって気候変動分野の研究は大きく進み、最近では深海を含めた海洋全体が地球環境に及ぼす影響を理解することを目指し、より深層の水温・塩分観測の必要性が指摘されるようになってきました。

 元々、鶴見精機でも中層フロート‘NINJA’を製品化していました。他国のものと比べると一回り大きいものの、本体の体積変化による精密な浮力制御が特徴でした。この時代に培われた知見を踏まえ、研究者らのニーズに応えるべくJAMSTECと共同開発したのが、水深4000mまで観測可能な物として世界で初めて実用化に成功したアルゴフロート、Deep NINJAです。平成25年度に海鷹丸より投入いただき、南極海での越冬観測も成功させることができました。

 Deep NINJAは浮力エンジンによる体積の増減により、目標深度の海水密度と中立します。体積を増やすと密度は小さくなり、周囲の海水よりも密度が小さくなるので浮上します。簡単に言うと、フロート内部には油で満たされた注射器が入っていて、注射器のピストンを引き込んだ状態が密度の大きい状態です。ピストンを押して油を外に出すと、その先にある袋が、油の注入に伴って膨らみます。袋は海水と接しており、深くなるほど水圧で袋が押されるので、ピストンにかかる負荷は大きくなります。このピストンの動作を、高圧下で如何に効率的に稼働できるかというのが、開発を難しいものとしていた要素でした。発想はシンプルでいて、既存のパーツの斬新な組み合わせによりこれらの問題を解決できたことが、Deep NINJAの実用化に至る鍵となりました。

本体外観

本体外観

 最後に、弊社設計者に浮力エンジン開発の経緯を聞いて参りましたので、抜粋して記載します。


以前、流速計の高圧下試験の為に軸流ポンプを試作しました。その後、建設関係の方からボーリング孔内の採水の依頼を受け、製作したのが往復ポンプでした。社内で中層フロートが課題となったとき、その駆動エンジンを、前述の往復ポンプの変形で単ストロークのポンプとし、実現しました。今回のDeep NINJAでは、これを複数ストロークとし、ロングストローク、低回転の手法を選びました。
客先対応がすぐ出来る様、社内加工だけで製造可能なものにしたく、これが経験から出た解でした。目的の解は多数あっても、結局選ぶのは各人の経験と趣味かも知れません。


 経験とひらめきとコスト感覚、それらのバランスのとれた技術者に、私もなりたいと思いました。これからも精進して参ります。 ((株)鶴見精機 サービスセンター)

Deep NINJAは、独立行政法人海洋研究開発機構「実用化展開促進プログラム(戦略的連携タイプ)」(平成22~24年度)に基づき、海洋研究開発機構殿と共同開発した製品です

参考文献

小林大洋ら:深海洋プロファイリングフロート「Deep NINJA」の開発 

ハードウェア的要素技術について,海洋調査技術,27 (1) p.1~17 (2015)

「若鷹丸」での投入風景

「若鷹丸」での投入風景

 

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