平成29年新春に際してのご挨拶 -楽水会会員の皆様方へ-
学 長 竹内俊郎(21製大・10修)
会員の皆様、明けましておめでとうございます。良いお正月をお迎えのことと存じます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。平成29年新春に際し、一言ご挨拶申し上げます。
はじめに
昨年は多くの出来事がありました。自然災害としては、熊本地震・鳥取地震や阿蘇山の噴火、東北・北海道を中心とした台風被害など、被災された多くの皆様方に心からお見舞い申し上げます。本学では、熊本地震によりご実家が損傷され被害を受けた、1名の学生に対して授業料免除を行っています。東日本大震災で被災された学生も本学に毎年数名入学しており、こちらについても入学料や授業料の免除等を実施しています。まだまだ傷痕は深く、継続的な支援が必要です。
本学における昨年の特記事項としては、楽水No.855にも一部記載していますが、1月:タイムズハイヤーエデュケーションの小規模大学世界ランキング第20位、水産資料館(マリンサイエンスミュージアム)のリニューアルオープン、2月:学術研究院の設立(教員の一元化)、3月:神鷹丸IV世の竣工式、5月;週刊東洋経済の「本当に強い大学」総合ランキング第26位(平成27年の第71位から大躍進)、6月:日本経済新聞の「企業の人事担当者から見た大学イメージ調査」総合ランキング第4位、新学部(海洋資源環境学部)設置の承認(後述)、7月:明治丸記念館の竣工式、10月:大学の世界展開力強化事業採択(後述)等、盛りだくさんでした。
新学部について
さて、本学が統合してから、14年目となります。統合時に、2つの大学が統合したのだから、1+1は2ではなく3にでも4にでもなるように発展してほしいと言われていました。このたび、新学部となる海洋資源環境学部の設置が昨年6月に認められ、現在4月からの入学生受け入れの準備を進めているところです。これで、本学は3学部体制に移行します。旧東京水産大学の水産学部が、統合により海洋科学部に名称変更していたわけですが、今般、さらに海洋生命科学部と新たに名称を変更し、バイオにかかわる教育と研究をより一層推進する方向性を示しました。
一方、新しい海洋資源環境学部は13名(うち実務家教員2名、外国人3名:クロス・アポイント制を含む)の新たな教員を採用し、2学科から構成されています。1つが海洋環境科学科で、従来の海洋環境学科を移行したものです。もう一つが海洋資源エネルギー学科で、新規採用教員のほか、他の学部・学科等から計5名を配置換えし、再生可能エネルギーや海底資源の探査・利用に関する海洋開発学、また、海上・海中・海底での活動を支える応用海洋工学という2つの学問分野を教育・研究することを目的に新たに設置しました。大学院については、新学部の学生がそのまま大学院の海洋環境資源学専攻に進学できる煙突型にしました。大学院の新専攻も本年4月1日に開設されます。そして、本年4月には新学部開設記念の国際シンポジウムを開催する予定です。
今回の新学部のルーツは昭和48年に設置された海洋環境工学科にあるのではないかと思っています。14年ほど続いたわけですが、残念ながら、学部改組・大講座への移行及び博士課程設置の改組の折に、解体されてしまいました。その後、平成8年に海洋環境学科として、今日に至るわけですが、工学的な観点は少なく、近年社会から要望されていました、海洋開発を前面に出した教育・研究組織がどうしても必要だということで、今回の改革になったものです。学科を作るのではなく、学部を作るということは、大変大きな変革であり、「本学における平成の大改革」とも言われています。今後本学がこの分野でのトップランナーとして、強力に推進していくというメッセージを発信したものとご理解ください。
新学部の同窓会の在り方については、現在楽水会・海洋会にお願いして、検討していただいているところですが、私としては、将来を見据えて、両同窓会が合同で行う新たな組織にしていただければと願っています。法人の定款に掲げている学生支援をより鮮明にして、後押ししていただきたくお願いいたします。新学部の学生が4年後就職する場がしっかりと確保できるように大学としても新産業創出に向けた取り組みを強力に進めたいと思っています。そのためにも、水産、海事の枠を超えた、オール海洋大での後押しがぜひとも必要です。この点についてもご理解とご支援を賜りたいと思います。
業務実績の件
昨年、第3期の中期目標中期計画(中目・中計)がスタートしましたが、私は中長期的な展望が必要と考え、第4期(2027年度)終了時に向けた「ビジョン2027」を作成し、教職員と共有することとしました。現在、アクションプランとロードマップにより、着実に諸施策を進めております。昨年1年間の進捗状況について評価を行い、その結果を基に、PDCAサイクルを回し新たな課題等を抽出しております。なお、このビジョン2027のロードマップの内容については、第3期の中目・中計の毎年度計画に落とし込んでおり、確実に実施する体制となっています。
文部科学省からの成績簿ともいえる平成27年度の「業務実績に関する評価結果」では、「業務運営の改善及び効率化(13事項)」、「財務内容の改善(5事項)」、「自己点検・評価及び情報提供(6事項)」、「その他の業務運営(7事項)」の4項目(31事項)すべてについて5段階評価の上から2番目の「順調」と評価していただきました。この評価は「特筆」「順調」「おおむね順調」「やや遅れ」「重大な改善事項」の5段階です。どうも小学校以来のトラウマで、「オール5じゃないとだめじゃないの」という親の重圧から解放させず、「4ばかりか・・・」と思ってしまうのですが、実際は良い評価といえます。今後も「戦略性が高く意欲的な目標・計画」及び「大学の機能強化に向けた取組み」を着実に実施していく所存です。なおこの中で、特に注目される事項として、「学長裁量経費を活用した特色あるプロジェクト」、「外部有識者を活用した教員配置戦略会議の設置」、「報道関係及び広報会社からの意見を活用した情報発信の工夫」について高い評価をいただきました。さらに、教育研究の質の向上における注目される事項として、「海外の大学と連携したグローバル教育」、「大学院授業の英語化の取り組み」、「留学生に対するきめの細かい支援」が評価されました。一方、研究開発として、水産海洋プラットフォームの技術相談(気仙沼)から始まった「サメ肉異臭除去技術開発」が外部資金獲得につながったことや本学が重点研究課題として支援している「代理親魚技術を駆使した絶滅危惧魚種の保全技法の開発」に関する論文が、インパクトファクターの高い電子ジャーナルに掲載されたことなどが高い評価を受けています。
本学はご存知かと思いますが、第3期から、予算上新設されました「重点支援の(3つ)枠組み」から「重点支援②:主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野での地域というより世界・全国的な教育研究を推進する取組みを中核とする国立大学」を選択し、ビジョン、戦略、具体的な取組みからなる「全体パッケージ」を作成し、同時に戦略の達成度を判断するための「評価指標(KPI)」を設定し、戦略的に翌年度の予算を獲得すべく努力しています。今回過去2年間獲得できなかった施設整備費補助金(国立大学改革基盤強化促進費)として、「海技士・陸上エンジニアリング・海洋開発分野への人的資源輩出を目的とした、エネルギー教育研究システム」が採択されました。また、別途申請していました日中韓プログラム(大学の世界展開力強化事業TypeA-②)が、申請22大学中、採択9大学の中に入り、昨年終了した前事業について学内予算で継続して実施してきましたが、今回採択されたことで、日中韓プログラムを新たに継続できることになりました。本プログラムは上海海洋大学、韓国海洋大学校及び本学の3大学による相互の学生交流プログラムです。修士課程における共同学位の枠組みも作ります。政治的にはともかく、学術面ではしっかりとした友好関係を継続させていく所存です。
本年度の課題
本年度の課題は、3学部体制及び事務局体制のスムーズな移行があげられます。過去2年で、教員人事の一元化や教員配置の枠組み作り、全学のスペース再配分、組織体制の改革など、スピード感を持って実施してきました。今年はそれらを実質化するために、問題点の検証を行い着実な運用ができるよう、体制を整備する予定です。また、快鷹丸遭難110周年となる今年は、神鷹丸を韓国に派遣し、楽水会会員の皆様方並びに学生とともに記念碑に参拝する計画を立てております。さらに、現在学長主導のもと、シンクタンク機能をもたせた経営企画室に、混住型新寮等検討チーム、収益事業検討チーム、スペース再配分検討チーム、冨浦ステーション運営検討チーム、教育研究上の目的及び3(アドミッション・カリキュラム。ディプロマ)ポリシー検討チームを設置し、具体の企画立案作業を行っています。混住型新寮建設ですが、建設までには数年を要することから、昨年10月に5部屋ほどアパートの借り上げを行い、優秀な留学生の確保を目指した取り組みを行っています。本年4月からはさらに6室を借り上げる予定です。今後は、混住型新寮等検討チームにより、いよいよ建設に向けた準備を進めます。また、教職員の宿舎として私もお世話になりました神奈川県藤沢市にある「藤が岡宿舎」については、築50年となり老朽化が激しく、空室率が約80%で、かつ入居希望者が少ないことから、残念ですが平成30年3月をもって廃止することにしました。なお、今年は私の学長の任期であります1期3年の最終年となることから、学長就任時に公表しました所信表明を確実に実施する覚悟であります。
寄附について
以前にもご紹介しましたが、国からの運営費交付金の減額に伴い、学生支援に対する経費や留学生や外国人研究者に対する国際交流活動経費、さらには学術資料の収集などに関する経費が不足しております。楽水会からは100周年基金とともに、学生の海外派遣、留学生のセミナー支援などご協力をいただいております。特にグローバル人材育成事業では、東・東南アジア5か国(台湾・香港・マレーシア・シンガポール・タイ)に海外派遣キャリア演習の一環として、毎年30名を超える学生(別名、海外探検隊)を約1か月派遣するとともに、昨年からバリューチェーンプログラムをタイのほかにノルウエーにも派遣する体制としました。海外探検隊は1班4-5名のグループで現地の邦人企業に赴き、1-2週間ほど研修を体験するとともに、現地の大学との交流などを行っています。これらの体験は、学生たちに刺激を与え、海外へ向かう気持ちを強くしており、その結果、JICAとの連携ボランティア事業(セントルシア・コロンビア)、バリューチェーンプログラム、さらには、文部科学省のトビタテ留学JAPANによる28日以上2年以内の海外留学プログラム、米国務省主催プログラム「International Visitor Leadership Program (IVLP)」に参加するなど、極めて活発な海外活動を継続して行っており、波及効果が極めて高くなっております。この海外探検隊経験者が自ら同窓会「海(うみ)越会(ごえかい)」を組織し、現在100名を超えるOB、OGを含めた学生たちが活動を行っています(写真)。しかしながら、このグローバル人材育成事業はこの3月で国からのサポートが終了するため、本事業を継続するためには新たな費用の確保が必要になります。
そこで、現在本学の基金体制について、大幅な見直しを行っております。まず、昨年9月に大学基金に詳しい方を学長特別補佐としてお迎えし、渉外活動、寄附プログラムの作成、寄附者への感謝表明の標準化などについて、ご助言をいただいております。さらに、基金体制整備として、今後本学同窓会であります楽水会と海洋会にお願いし、ファンドレーザーを委嘱することも考えております。この件に関して、今後ご協力いただければと思っています。ただし、国からサポートされるファンドレーザーの費用については、年間の寄附が1億円以上の大学でないと申請できません。本学は3千万円程度ですので、まずはボランティアでお願いしながら、1億円を目指す考えです。
基金の税制については、「楽水」の前号で元学長の松山先生がご寄稿されていましたが、税法上の優遇措置(所得控除と税額控除の選択制)が利用できる就学困難な学生に対する支援「修学支援基金」を1つの柱とし、昨年11月からスタートしました。本学では、例えば、全額授業料免除適格者の多くが半額免除しか補助できていません。1500万円あれば就学困難な学生全員に対して、全額授業料免除が可能になりますし、海外への留学や留学生の受け入れ等の費用に充てることができるようになります。この基金の使用については、下記の事業に限定しております。
一 授業料、入学料または寄宿料の全部もしくは一部の免除その他学生の経済的負担の軽減を図るもの
二 学資を貸与または支給するもの
三 教育研究上の必要があると認めた学生による海外への留学に係る費用を負担する
四 学生の資質を向上させることを主たる目的として、学生の教育研究にかかわる業務に雇用するために係る経費を負担するもの
もう1つの柱としては、企業等への大口寄附をお願いする仕組みを考えております。こちらの詳細が決まりましたら、ご連絡いたします。
このように本学では積極的な基金の確保とその運用に取り組んでおります。この点ご理解いただき、「東京海洋大学基金」、特に「修学支援基金」へのご寄附をお願いいたします。下記にお問い合わせいただければ幸いです。
https://www.kaiyodai.ac.jp/overview/kikin/post_23.html
電話:03-5463-8477 E-mail: kikin@o.kaiyodai.ac.jp
何卒よろしくお願いいたします。
おわりに
本学は大きく変容しています。しかしながら、昨年も書きましたように、本学はこれまでの伝統を継続、国・地方公共団体や産業界への人材育成に力を注いでいくことに変わりはありません。引き続き、世界を見据え、世界に通用する人材育成を積極的に進めます。会員の皆様方から温かい目でのご意見ご批判等をいただくことで、本学のさらなる発展に役立たせたいと存じます。新年にあたり、本学の状況と今後の抱負などを述べさせていただきました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。