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2016.09.02 10:21

わが国のノロウイルス食中毒はいつ発生するのか

髙橋正弘(18製大)

 食中毒とは「有害な生きた微生物やそれらが産生した毒素、有毒・有害な化学物質や重金属、自然毒が含まれる食品などを摂取することによって起こる急性胃腸炎症状あるいは神経麻痺などを主症状とする疾病の総称で、保健所長が疫学調査に基づき認定したもの」である。

 食中毒の分類は原因となる病因物質によって微生物性食中毒、化学性食中毒、自然毒食中毒の3つに大別している。微生物性食中毒はさらに細菌性・ウイルス性・原虫による食中毒の3つに分けられる。

 ウイルス性食中毒のうち病因物質(病原体)がノロウイルスの場合、ノロウイルス食中毒という。ノロウイルスは極めて小さく(30nm程度)、電子顕微鏡で見ると正20面体のイガグリ状の形をしている。ヒトの腸管内でしか増殖できないのでヒトの糞便が感染源となる。少数個で発症し、潜伏時間は1~2日間で吐き気・嘔吐・続いて激しい水様性下痢・腹痛・ときに発熱・頭痛・筋肉痛を伴い、その後1~3日間で回復し、後遺症はない。

 1997年5月食中毒病因物質として指定され、当時は小型球形ウイルスと呼ばれたが、2003年からこの名称に変更された。

 食品(カキなどの二枚貝類が多かったが、野菜サラダやサンドウィッチなどの非加熱食品の事例が増えている)などを摂取し、発症したことが明らかな場合はノロウイルス食中毒というが、ヒト―ヒト感染であればノロウイルス感染症といい行政対応が分かれる。

微生物性食中毒の予防の3原則は

汚染防止:原材料・取扱設備・器具および取扱者の手指に食中毒微生物が存在しないこと
増殖防止:低温(国際的には4℃)に保持して食中毒微生物の増殖を防ぎ、増殖する時間を与えないこと
死滅:加熱処理が有効

すなわち「清潔」「冷蔵・迅速」「加熱」といわれている。

 ノロウイルス食中毒の予防対策は生食品(特に貝類)の喫食を避け、十分な加熱処理(85℃・1分間以上)を行う。ヒトの手指や吐物などを介して食品を汚染するので、手洗いを十分に行い、手袋やマスクの着用は効果的である。

 予防対策は常時行うのは当然のことではあるが、多発期に対策を強化するのが効率的であると考えられる。ノロウイルス食中毒は冬季に多く、12月から1月の時期に集中しているという集計結果が厚生労働省から示されている。しかし、十分な疫学的分析が行われているとはいえない。

 そこで、月別・週別・日別・曜日別の発生件数を統計解析し、わが国ではいつノロウイルス食中毒が発生するのかを明らかにする。

≪資料・解析≫
1.資料(標本):「全国食中毒事件録」第3篇に収録されている1998年~2008年の11年間のノロウイルス食中毒事件例を用いた。

2.解析:発生件数の基本統計量(平均値・標準偏差および95%の事例が含まれる値の上限値など)を月別・週別・日別・曜日別に求めた。検定は対応のないデータにおけるt検定を用いた。

≪結果≫
ノロウイルス食中毒がいつ発生するのかは、月別・週別・日別および曜日別に発生件数を解析して明らかになった。ただし、潜伏時間が1~2日間なので、暴露日(食べた日)は発生日の1~2日前になる。

1.月別発生件数:12月、1月、2月、3月、11月の順に多く,冬季に発生が集中していた。12月と1月の間は有意差が認められなかったが,12月・1月は他の月との間で有意差が認められた。したがって、12月・1月は特に発生件数が多い月であった。月別発生件数は平均値22.7件、上限値69.2件であった。

2.週別発生件数:第47週から第14週の間が連続して平均値を超える期間で、中でも第51週が有意に多く、第52週および第1週の年末年始の週が有意に少なかった。週別発生件数は平均値5.0件、上限値15.6件であった。

3.日別発生件数: 11月17日~3月31日の間が平均値を超える期間で、12月9日、12月10日、12月16日、12月23日など12月中旬の第51週の日が特に多かった。12月29日、12月30日、1月2日、1月3日など年始年末に当たる日は平均値を下回り発生件数が少なかった。日別発生件数は平均値0.7件,上限値2.4件であった。

4.曜日別発生件数:土曜日、日曜日、金曜日、月曜日、火曜日、木曜日、水曜日の順に多かった。土曜日と日曜日の間は有意差が認められなかったが、土曜日・日曜日は他の曜日との間で有意差が認められた。したがって、土曜日・日曜日は発生件数が多い曜日であった。曜日別発生件数は平均値38.9件,上限値61.6件であった。

(元神奈川県立保健福祉大学教授)

引用文献
1)高橋正弘ほか:わが国の食中毒はいつ起こるのか―食の安全・安心に向けて―.New Food Industry,54(12),17-26,2012.
2)高橋正弘ほか:Norovirus食中毒における発生頻度の時間的な検討.獣医疫学雑誌,18(1),56-64,2014.
3)高橋正弘ほか:食品衛生の基礎-食品衛生法からHACCPまで-.日本技能教育開発センター,2014,東京.

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ノロウイルスの電子顕微鏡像(埼玉県衛生研究所篠原先生撮影)

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