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2019.10.02 11:17

キャリア支援センター通信②

塩谷 和美(20漁大)

人生100年時代を迎えて
 つい最近まで人生80年時代と言われてきたが、英ロンドン大学教授のリンダ・グラッドソンが書いた『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略(2016)』が世界的なベストセラーになり、2018年政府は“人生100年時代戦略本部”を立ち上げ、更なる公的年金開始年齢の引き上げも視野に入れている。
 政府の目論みは別としても、現代医療の進歩や国民の健康至上主義の普及で寿命は延びる一方である。また、企業の雇用延長で60歳以降も働くことになったことからか、高齢者の風貌の若返りも見られる。1969年にテレビアニメを開始した『サザエさん』に出てくる波平さんの表情を思い起こしてほしい。設定年齢は何と54歳であった。今ならさしずめ70歳以上だろう。当時の定年は55歳、平均寿命は男性69歳であり、定年後十数年の余生で、55歳以降の働く姿は想像すらしなかった時代だった。

キャリア支援を行う企業研修
 年金の支給開始年齢が段階的に65歳まで引き上げられたため、政府は企業に対して、その支給開始年齢まで雇用確保を義務づけている。方法は定年延長や廃止、再雇用(継続雇用)であるが、1年契約更新など再雇用を実施している企業が8割程度で最も多い。
 現在、多くの大手企業では雇用延長を前にした50歳代社員に、60歳の定年以降の働き方を考える機会として、キャリアデザイン研修なるものを実施している。また、世代ごとにキャリアのテーマが異なるので、その節目で同研修を10年ごとに実施している企業も増加している。日常の業務に追われて自分の立ち位置を見失ないがちになる社員に対して、「自律的なキャリア形成」を意識させ、組織貢献を旗印に個人への期待感を伝えるために実施しているのである。
 人間の寿命は延びる一方、市場競争の中、経営環境の大きな変化で会社寿命は30年と短くなった。終身雇用・年功序列については、今や企業は個人に保証できないし、40年間以上一つの会社で働き続けることが難しくなった。個人のキャリアを企業に委ねることができない時代を迎えて、“キャリアの掟は自己責任”という認識が必要だ。

キャリアとキャリアデザインの世代ごとのテ
 キャリアは過去の職務経験に留まらず、現在・将来に及ぶ。価値観や強み弱みを棚卸し、自分の夢や目標に向けての将来構想を含む。“キャリアデザイン”とは自分らしい働き方を実現するために戦略を立てることなのである。キャリアは長い期間働く者にとっては一人一人の問題である。
 大多数の者が企業や組織で働き、期待される働き方は年代によって段階的に変化していき、同様に個人の体力や能力の変化とスライドしていくことになるのは、長く社会人を渡り切って来た人には理解できるだろう。年代毎にキャリアデザインのテーマが異なる、一つのモデルがある。
 20歳代は組織内で自律を意識し、選り好みせずに何事にもがむしゃらに挑戦し“試行”することだ。現場での「石の上にも3年」という下積みも重要な期間で、その中で仕事を覚えていく。30歳代では自分の今後の働き方の軸としての専門性を意識して、与えられた任務と折り合いをつけながら、その専門領域を“絞り込み”、選択し集中して、独自の得意領域を確立していく。
 世代ごとの課題は個人の可能性や成長に大きな影響を及ぼす。20代前半の早い時期に自分の専門性を限定するのは、研究の世界でも、企業人としても個人の持っている潜在能力を発掘することなく、成長の芽を摘むことにもなりかねない。異動・転勤などその時は辞退したくなる事態であっても、新しい職場で挑戦する過程で思いがけない自分の潜在能力を発見し、それが今の天職につながったという研究者や経営者は多くいる。

 また、“他流試合”はどんな世界においても成長を促す。もともとは、各種武道で「他の門」をたたいて稽古をつけてもらいながら技を磨く鍛錬手法であるが、仕事のプロになるための有効な能力開発の手段となる。海外派遣、子会社への出向は大きな転機であり、自己成長に繋がったと多くの経験者が語るが、日常の業務であっても営業で得意先との折衝、技術者でも社外派遣や異業種交流などでも他流試合は体験できる。ここでは、「仕事ができる他者」に大いに刺激を受けて成長の糧にする。ある時には圧倒的な実力の差を見せつけられて、挫折することもある。

一皮むけた経験が成の糧
 仕事上で困難な試練に立ち向かい克服していく経験を、長年キャリアを研究している神戸大学の金井壽宏教授は“一皮むけた経験”と表現している。人はいくつかの試練を経験する中で新しいステージへと踏み出し、成長していくという訳だ。現役の職業人としての前半戦はこの体験の中で実力をつけ、たくましくなっていく。
 組織内での貢献度合いや仕事人としての自覚から言っても、“ものごとを成し遂げる”40歳代が最も脂がのっている世代だろう。自己の専門領域の仕事で成果を出して、プロとしての自己を確立していく。同時に、仕事での役職や家族の重圧感にも耐えつつ、それぞれから貢献を要求される瞬間に多々襲われる、踏ん張りどころの年代でもある。
 ユング(Carl G.Jung)にならって人生を太陽の動きになぞらえると、40歳が“人生の正午“ということになる。中年への過渡期であり、大きな岐路にさしかかる。ますます力みなぎり創造的になる人と、停滞し始める人が顕著に分化する時期がこのミドルのころである。
 この岐路をどう乗り越えるか。

 私事で恐縮だが、私に人生をどう生きるかを最初に教えていただいた、本学の卒論指導教官は“人生はロケット”という表現をされていた。人間は、社会人として新たな世界に飛び立つのに、幼児期から20年以上かける贅沢な生き物だ。就職が第一のロケット噴射であり、そのままでは力尽きる時が必ず来る。第二弾ロケットの噴射をすべき時期に備えて多くのインプットを心掛けよ!という教えであった。私は40代後半で大きな転機となる転職を経験し、その後第三、四段の噴射の暁に現職に至ったという経緯である。

[東京海洋大学特任教授・キャリアコンサルタント]

※今回、特別にメールマガジンで発信した『キャリアセンター通信』は、会報誌『樂水』で好評連載中です。これからますます充実した内容になってまいりますので、お楽しみに!

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