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2020.01.06 15:13

2020年新春に際してのご挨拶     

学長 竹内 俊郎(21製大)

楽水会会員の皆様方へ

 会員の皆様、新年明けましておめでとうございます。今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される年です。皆様素晴らしい新年をお迎えのことと存じます。2020年新春に際し、ご挨拶申し上げます。

 今年は子(ねずみ)年で、十二支の始まりの年でもあります。人生100年時代(神奈川県では100歳時代と知事が主張)ということからすると、定年後あと30~40年の過ごし方等について、会員の皆様方もいろいろお考えになっていらっしゃるかもしれませんので、そのような話題を楽水会誌で共有しても面白いかもしれません。

 大学運営では、第4期(2021年度~)に向けて取り組むべき事項を精査する時期となり、ガバナンスを発揮しながら引き続きしっかりと進めていきたいと思っています。

 さて、ここ数年多くの災害が発生しており、特に昨年の9月には、台風15号が千葉県の房総半島を中心に、10月には台風19号が関東・甲信越から東北地方の広範囲に、さらには台風21号と低気圧の影響による記録的大雨により被災地に再度の甚大な被害をもたらしました。このような中、同窓生の皆様方あるいは皆様のご家族やご親戚、職場の皆様方などが被害を受けられたのではないかと心配しております。被害を受けられた方々に心よりお見舞い申し上げます。

 本学の学生・教職員は、幸いにも、特に被害はなかったのですが、水圏科学フィールド教育研究センターである千葉県の館山ステーション(昔の坂田実験実習場と館山実習場)、冨浦ステーション及び静岡県の清水ステーションは大きな被害を受けました。特に館山ステーションでは、実験施設の屋根が飛ばされたり、停電が3~4日続いた影響で、水の供給停止や温度制御ができず(自家発電を使っても、全てをまかなうことができず)、実験魚が約800尾も死んでしまいました。さらに、小型ボートの損傷などもあり、大きな痛手です(被害状況の写真)。

昨年の特記事項

 本学における昨年後半の特記事項について、いくつかお話しします。
 まずは、2019年度の国家公務員採用総合職試験の合格者数が2018年度に引き続いて、10名を上回りました。2018年度については、楽水No.867ですでに報告していますが、2年続けての好成績を収めました。これは、学内に公務員対策補習授業を設け、東海理事を中心に教育してきた成果の現れだと思います。

 二つ目は、文部科学省が推進している卓越大学院プログラムに、本学の「海洋産業AIプロフェッショナル育成卓越大学院プログラム」が採択されたことです。このプログラムは、海洋研究分野において、最先端の研究を教育に反映させ、新たな産業の中核として活躍する「海洋産業AIプロフェッショナル」を養成し、研究成果を社会に還元して新たな産業の創生に貢献する博士5年一貫の大学院を設置するもので、今後7年間で総額10億円のプログラムです。表にあるように、採択校のほとんどが大規模大学で、特に機能別重点支援の第3分野に属する大学です。本プログラムには、多くの協力機関(国立研究開発法人・独立行政法人・地方自治体・NPO 法人・海外の大学、民間企業等)に参画いただき、「海洋AIコンソーシアム」を組織して運営することとしており(図)、早速、昨年の11月1日に「海洋AI開発評価センター(MAIDEC)」を越中島キャンパス内に開設しました。本年4月からプログラムを開講し、2026年度には「海洋産業データサイエンス専攻(仮称)を立ち上げ、マスターから10名、ドクターから社会人5名、計15名を定員とする専攻を予定しています。

 本プログラムの目的は、「海洋の未来を拓くために、全学を挙げて水工連携で取り組むAIプロフェッショナル人材育成の構築」であり、これは、これまで「ビジョン2027」の中で、アクションプランとして掲げ取り組んできた内容に沿っています。すなわち、「教育分野」では、国際的な基準を満たす質の高い教育や海洋分野で世界をリードする独創的な教育プログラムの推進、「研究分野」では、将来におけるトップクラスの研究を支える人材育成、を行おうとするものです。本プログラムは、大学院充実のための5年一貫の博士課程として本学の核となる重要なもので、今後、10年、20年先における海事、水産を含めた海洋産業は大きく発展する可能性を秘めており、その中で、AIを駆使できる人材は必須となることでしょう。 


 国際交流については、昨年の8月に13回目となる「上海海洋大学・東京海洋大学合同シンポジウム」を上海海洋大学で開催しました。テーマは「深海・南北極海域をめぐる研究の現状と展望」で、両大学から9名の教員が講演を行いました。また、同時期に、上海港に入港した神鷹丸による「船の見学会」及び「国際交流レセプション」には、在上海日本国領事館から経済部長兼広報文化部長並びに領事館領事の2名にもご参加いただきました。
 昨年9月には、一昨年に引き続き開催された「上海海洋大学主催による国際学生ドラゴンボート招待トーナメント(本学、ポルトガル、マレーシア、オーストラリア、韓国及び中国の6か国計11チームによる対抗戦)」に、品川カッター部、女子カッター部及び木曜会(越中島カッター部)の学生14名及び教員2名が参加しました。世界各国の学生との交流を楽しむなど、貴重な経験となりました。
 また、12月にはインドネシアのベノア港に入港した海鷹丸において、日本語補習校の生徒を中心に約250名の参加者を得て「船の見学会」を実施し、大変好評を博しました。これは楽水No.867でも紹介しましたが、一昨年に海鷹丸がベノア港入港の際に実施した「レセプション」に参加いただいた、在デンパサール日本国総領事館の千葉総領事からの要望を受けて実現したものです。
 なお、本学の留学生数ですが、269名(31ヶ国)と過去最高(これまでは254名)に達しました(昨年11月1日現在)。これは、昨年から国費留学生優先配置のプログラムが3件新たに認められたことにより、修士及び博士課程の学生が増えたことによるものです。
 産学・地域連携では、気仙沼信用金庫と「産学連携協力に関する協定」を昨年10月31日に調印しました。これまでも、「地産都消プロジェクト」として、本学が気仙沼市に設置した「三陸サテライト」と東京東信用金庫本店5階に設置した「東向島オフィス」を結んで、魚食普及イベント「おさかな大好き!」を開催するなどの事業を展開してきましたが、今回気仙沼信用金庫と協定を結ぶことにより、本学・東京東信用金庫との3者による「産学官金」の連携がより一層強固なものとなり、気仙沼地域との交流がさらに密となることが期待されます。

今年の課題

〇ビジョン2027
 昨年4月に改訂し、既にバージョン2として実施しているところですが、アクションプランやロードマップを検証し、PDCAを確実に回していきます。

〇研究
 今年は、農林水産省食料生産地域再生のための先端技術展開事業(宮城県・水産業分野)「異常発生したウニの効率的駆除及び有効利用に関する実証研究」の最終年です。水中ロボットによるウニの認識と捕獲は順調に推移しており、本技術の確立により、磯焼けの防止やウニの有効利用が図られそうです。
 また、国際協力機構・科学技術振興機構の地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「世界戦略魚の作出を目指したタイ原産魚介類の家魚化と養魚法の構築」代表者:廣野育生(本学)は2年目となり、両国の教員及び研究者の交流がますます活発になると思われます。さらに、SATREPSの事業の一つである「東南アジア海域における海洋プラスチック汚染研究の拠点形成」代表者:磯辺篤彦(九州大学)において、分担ではありますが、本学の「海域の浮遊プラスチック」の取り組みが、本格的にスタートします。こちらもタイ国のチュラロンコン大、ワライラック大と協力して、タイランド湾に浮遊する大型のプラスチックごみからマイクロプラスチックについてのモニタリングを実施し、プロトコルを確立することとしています。なお、平成30年度の「業務実績に関する評価結果」の中で、本学が取り組んできた「海洋プラスチックごみ」に関する調査研究が高く評価され、特記事項に掲載されることになりました。

 令和2年度の概算要求として、「水圏生殖工学研究所」を新規で要求しています。この新年号の発刊時には、その結果が出ていると思います。組織体制としては、研究所に「基盤生殖工学分野」、「生殖ゲノム工学分野」、「保全生物学分野」及び「技術・知財支援室」を設置し、新規に3名の教員を要求しています。これまで本学が実施してきた世界の先頭を走る研究成果を応用し、付加価値の高い多種類の高級魚を少量ずつ養殖したり、我が国周辺海域の豊かな多様性を有する魚類遺伝子資源から、優れた形質を持つ種苗を選抜・改良して大量生産し、諸外国の養殖施設へ種苗を輸出する等の「基礎」から「応用研究」までを一貫して行い、新産業の創出を図ろうとするものです。設置されることになれば本学として初めての、そしてこの分野における世界最先端の研究所として、世界中から多くの研究者が訪れることが期待されます。

〇国立大学法人法が一部改正されたことに伴う新たな事業
 次の二つの事業を推進します。

・自己収入の一部(余裕金)の確実な運用:余裕金について従前より収益性の高い金融商品が運用可能と
 なったことから、基金運用管理委員会をこれまで通り継続的に実施し、受取利息の増加を図ります。現在
 のところ、運用利率は平均で0.8%/年になっています。あまり無理をせずに、安全重視で運用していく所
 存です。
・土地の有効活用プラン:昨年、新春の挨拶でも書きましたが、品川キャンパスの敷地(一部:約 
 9,000m2)を定期借地にして、有効活用を図り、学生寮(混住寮)をPFI方式により建設するために文部
 科学省に申請しており、認可後、建設に向けスタートし、予定が遅れていますが、2023年度末には竣工さ
 せたいと考えています。その後は、越中島キャンパスにも同様な定期借地によるプランを提出後、再度品
 川キャンパスについては、国内外からの企業の誘致を視野に入れたオープンラボを含む総合研究棟や国際
 会議ができる多目的ホールの新営などを手掛け、世界に名だたる海洋系大学としてその中心となることを
 見据えて、さらなる飛躍を図る計画を検討しています。

その他

〇大学基金

 昨年10月に「第2回東京海洋大学感謝の集い」を越中島キャンパスで開催しました。一昨年と同様に、30万円以上のご寄附を頂いた個人・法人を対象にご案内し、近況のご報告をしました。
 2016年に、国の税制改革に伴い、学生が経済的理由で修学を断念することがないように給付型の「修学支援事業基金」を設立し、これまで、2年半で75名、1名当たり10万円の給付を学生に支援してきたところです。現在のところ、10年間継続できる金額に到達しております。
 また、2年前に総務部内に「基金渉外課」を新たに設け、学外有識者による「学長特別補佐」として、山路様、楽水会から黒岡様、海洋会から竹口様の合計3名をお願いし、積極的に基金への寄附活動を実施してきております。今後は、学生の海外派遣への基金をさらに充実していきたいと考えております。
 これまでの募金活動の中で、寄附者の方々から、基金の趣旨には賛同するものの、基金のメニューが少なく、寄附しづらい、寄附者目線に立った多様なメニューの創設を求める声が多数寄せられたことから、「一般基金(目的指定なし)」のほかに、昨年秋より「プロジェクト基金(目的指定あり)」として、六つのプロジェクト(①大学全体、②修学支援、③グローバル教育基金、④学部・研究科等、⑤課外活動等、⑥その他)を立ち上げました。パンフレットなどもご用意しておりますので、ぜひ、
【基金渉外課】電話03‐5463‐4279
   またはE-mail:kikin@o.kaiyodai.ac.jp 宛
  あるいは直接HP:https://www.kaiyodai.ac.jp/kikin/information/2019/101099439.html
 にアクセスいただけると幸いです。

 前述した③グローバル教育基金のほかに、⑥その他として明治丸海事ミュージアム事業、雲鷹丸修復事業やブックハンティング事業への支援なども受け付けております。なお、冒頭に述べましたように、昨年9月及び10月に発生しました台風15号及び19号により、千葉県館山を中心に学生の実験実習施設等が大きな被害を受けたことから、現在、大学基金のその他の項目に、「館山・冨浦ステーション支援基金」を設けてご寄附をお願いしているところです。ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。なお、⑤課外活動等では、部活毎の支援事業も設置できますので、OB・OGの皆様、ご希望がございましたら基金渉外課にお申し出ください。
 今後もご寄附いただいた方々をお招きして定期的に「感謝の集い」を開催し、大学基金の受け入れ状況や事業等の活動報告などをお伝えする予定です。

〇寄附講座
 サラダサイエンス(ケンコーマヨネーズ)寄附講座については、2024年3月まで延長していただけたことから、昨年4月より新体制で再スタートし、10月25日には第3回目の「サラダシンポジウム」を開催しました。
 ケンコーマヨネーズ株式会社様には、この場をお借りして厚くお礼申し上げますとともに、更なる発展につなげていければと思っています。

今後の課題

 本大学は、今年で統合後17年目を迎えます。文部科学省では、今後の18歳人口の減少に伴う学生数の減少に対して、各大学がどのような大学改革を実施するのかを個別にヒアリングすることとしており、第3期後半の実績及び第4期の中期目標・計画作成の観点から、厳しい指摘が予想されます。本学としては、水産・海事・海洋の領域を包括した国内唯一の海洋系大学として、その使命を果たすべく、今後とも頑張っていく所存です。米国環境シンクタンクの世界資源研究所によると、海洋分野では漁業や海運業を通じて年間約268兆円分のモノとサービスが生まれており、その規模は2030年には倍増すると予測しており、本学がこれまで行ってきた、高度な専門性とグローバルな観点からの人材育成は今後ますます重要になってくるものと確信しております。「海洋の未来を拓くために」を合言葉に、皆様方のより一層のご助言、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

(東京海洋大学 学長)

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