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2020.02.03 15:34

海洋植物由来の乳酸菌を用いた機能性食品の開発

今田 千秋(28漁工17修)

 地球の全表面積の約7割を占める海は、「未知の微生物の宝庫」として注目されている。筆者はこれまで海洋環境からの有用微生物の探索や、それらの微生物が産生する物質の産業利用(食品や医薬品、化粧品などへの応用)などをテーマとした研究を展開してきた。最近では海藻表面から分離した乳酸菌をオカラの発酵に用いることを検討するとともに、その発酵オカラを用いた低糖質でグルテンフリー、かつ機能性のある食品(オカラケーキなど)の開発に取り組んでいる。本稿ではこの機能性食品の開発について紹介したい。

 海洋植物由来の微生物を用いた機能性食品の開発に取り組んだきっかけは、最近糖尿病や食物アレルギーに困っている人も多いことから、機能性食品の開発にも取り組みたいと考えたことである。私も家族も糖尿病の予備軍の一歩手前であることも研究を開始した動機だ。
 植物性乳酸菌は、漬物や味噌、醤油、日本酒製造などに用いられており、一般的に「漬物などのように低栄養や高塩分の環境でも増殖する」、「胃酸や胆汁で死滅しにくい(腸に届きやすい)」といわれている。一方、動物性乳酸菌は「胃酸に弱いので、腸まで届かずに死滅しやすい」ことが知られている。そのため、植物性の方が食品開発では有用であると考えた。

 岩手県大槌湾で採取した海藻(マツノリ)から単離した植物性乳酸菌を用いて、豆乳ヨーグルトへの利用を検討した。この乳酸菌は漬物などに一般的に存在している。豆乳は一般的に「美味しくない」というイメージが持たれがちであるが、最近は豆乳と乳酸菌を組み合わせた機能性食品の人気が高まっている。また、乳アレルギーの人でも豆乳で作製したヨーグルトなら食べることができる。この豆乳ヨーグルトの試作品を共同研究先の企業の多くの方々に提供したところ、お通じが良くなる、化粧ののりがよいなど、特に女性を中心に好評であった。現在、商品化に向けての検討を進めている。ちなみに、我が家のペット(ハムスター達)もこのヨーグルトを毎日好んで食べており、健康そのものだ。
 さらに、「腐敗しやすいオカラを乳酸発酵する」というアイデアを思いついた。オカラは家畜飼料に活用されている程度で、あまり有効利用されているとはいえない。一方で、オカラを乳酸発酵すると「大豆特有の青くささが軽減される」「イソフラボン(ポリフェノールの一種で、強い抗酸化力がある)が体内に吸収されやすい形に分解される」「発酵過程でアレルゲン(大豆)の成分が低分子化/分解される」「短鎖脂肪酸が増加し、腸内環境の改善に貢献する」など、さまざまな機能性が報告されている。また、発酵することで保存性が大幅に向上することも知られている。

写真1

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 そこで現在、企業と共同で、ある特殊な方法でオカラを発酵させたのち、パウチ化した状態で、食品原料として提供することを検討している(写真1)。今後の予定としてケーキのなどの焼き菓子の材料としての提供を準備中である。小麦粉の代わりに発酵オカラ、また砂糖の代わりにエリスリトール(ブドウ糖醗酵甘味料)、さらに卵、米油などを配合した試作品ができあがっている。この発酵オカラで焼いたケーキは、(未発酵オカラのケーキと比べて)生地が均一によく膨らむ(気泡がきめ細かくなる)などの物性向上が確認されている(写真2)。
 一般的にオカラを使った食品は「独特のにおいやパサパサした食感が苦手」という人もいるが、この発酵オカラのケーキの試作品を私の家族はもとより、共同研究先の企業の方々に提供したところ、「オカラのケーキとは気付かない くらいオカラの風味が全く気にならない」「しっとりしておいしい」と好評をいただいている。
 カカオ粉末や野菜粉末などを添加するなど、お好みに応じてアレンジも可能であるうえ、変わったところではお好み焼き、ピザやタイ焼き、ワッフル、焼きドーナツなどの原料としても使える。将来、一般家庭や外食産業などへも提供できると考えている。


               写真2

 日本では現在、600万人以上が糖尿病と診断されている(糖尿病予備軍を合わせると1,300万人)。低糖質食材は市場規模の拡大が見込まれるだけでなく、社会貢献度も高いと考える。また、「低糖質」「グルテンフリー」「アレルゲン対応」の3拍子揃った食材へのニーズは高まっている。特に、2020年のオリンピック・パラリンピックで訪日する方にも喜ばれるため、できるだけ早く世の中に出したいと思っている。また、今後は「卵を使用しない、ベジタリアン対応のお好み焼き生地」などの試作も検討していきたいと考えている。
 さらにいえば、この発酵オカラは食物繊維が豊富で、柔らかくて高齢者や小児でも食べやすいので、低アレルゲンの非常食としても適していると思う。様々な形で、社会に貢献できるように努力していきたい。(東京海洋大学 教授)

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