学長就任のご挨拶
井関 俊夫
この度国立大学法人東京海洋大学の第5代学長を拝命いたしました井関俊夫です。誌面をお借りしまして、就任の挨拶と、国立大学法人および本学を取りまく現状について簡単にご報告申し上げます。
私は福岡県福岡市の出身で、1989年に九州大学大学院工学研究科で博士号を取得し、東京商船大学航海学科の講師として採用されました。その後、2006年4月に東京海洋大学海洋工学部の教授に昇任しました。2016年度からは大学院海洋科学技術研究科長を2期4年間務め、2020年度は海洋工学部長および附属図書館長を務めさせていただきました。
これらの経験を通して、教育・研究における諸課題への対応や大学の管理運営に関する体制をある程度学ぶことができましたが、まだまだ理解が追いついていない部分が多々あります。皆様からのご助言、ご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
また、以下で述べさせていただく内容は、現在私が知っている範囲に限られております。本来ならばご紹介すべき話題が本学内には多数ありますことをご了解いただけましたら幸いです。
2004年に施行された国立大学法人法によって、すべての国立大学は競争的環境の中で、活力に富み、個性豊かな大学となることを目標として法人化されました。そして、各国立大学法人には「大学としてのビジョンの明確化」、「責任ある経営体制の確立」、「大学の裁量の大幅な拡大」、「第三者による評価の実施」、「情報公開の徹底」が求められました。「国立大学法人の継続的な質的向上」と「社会への説明責任の遂行」のために6年の期間を設定し、法人ごとに中期目標・中期計画を策定し、その目標の達成状況が評価されることになりました。
今年は第3期中期目標期間の最終年度であると同時に、2022年から始まる第4期中期目標中期計画の素案を策定する年度でもあり、大きな節目の年となっています。一方で、第2期中期目標期間の最終年度(2015年10月)に竹内俊郎前学長によって示された「ビジョン2027」は、中期目標期間を超える12年先を見据えて策定されたものであり、これまでの大学運営の根幹をなし、ぶれることのない大学運営が行われてきました。この「ビジョン2027」は第4期中期目標期間の最終年度と一致するように策定されていますので、両目標を達成できるよう一層の努力を続ける必要があります。
中央教育審議会答申「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」では、国立大学はイノベーション創造のための知と人材の集積拠点として位置づけられています。成長戦略実行計画(2019年6月21日閣議決定)においては、「大学は、知識集約型社会における付加価値の源泉となる多様な知を有しており、大学の役割を拡張し、変革の原動力として活用する」とされ、国立大学こそが社会変革の原動力であると期待されています。この意味において、2019年度に文部科学省に採択された本学の「海洋産業AIプロフェッショナル育成卓越大学院プログラム」は、時機を捉えた事業とはいえ、水工連携をより一層推し進めることにより、本学の存在感を国内外に広める原動力になると思われます。
この卓越大学院プログラムでは、7年間の事業期間中に世界最高水準の教育力・研究力を結集した5年一貫の博士課程学位プログラムを構築し、人材育成・交流および新たな共同研究の創出が持続的に展開される卓越した拠点を形成することが求められています。プログラム名中の「海洋産業AI プロフェッショナル」とは、ビッグデータ解析や機械学習法をリテラシーとして身につけ、本学が有する海洋、海事、水産の専門知識とフィールドに関する豊富な経験を基に、的確に人工知能を用い、その社会実装を主導するイノベータ・高度専門技術者や海洋政策の立案を行う人材と定義しています。
海洋関連労働人口の減少が危惧される現代社会において、本プログラムで育成された人材がSociety5.0実現およびSDGs達成に大きな役割を果たし、多様な価値・システムを創造し、世界におけるわが国の海洋プレゼンスを確立させることを大いに期待しています。
さらに、2020年度「国費外国人留学生の優先配置を行う特別プログラム」に採択された本学の「海洋産業イノベータ人材育成プログラム」は5年一貫の大学院プログラムであり、2021年10月から優秀な外国人留学生の受入れを開始します。卓越大学院プログラムとの相乗効果を誘導することによって、世界最高水準の教育力・研究力の結集を目指します。このように、5年一貫の大学院プログラムを複数走らせることにより、2026年の「海洋産業データサイエンス専攻(仮称)」の設置に向けて大学院教育の抜本的なシステム改革を行っています。
一方で、これらの改革において忘れてはならないこととして、大学院学生に対するキャリアパスの明示と経済的支援があります。近年、わが国では博士後期課程に進学する学生が減少傾向にあり、博士号取得者数も主要国の中で唯一減少傾向にあるといわれています。また、社会や企業の期待と博士課程教育との間のギャップ(人材ニーズの乖離)が存在するとの指摘もあります。
そこで本学では、海洋分野を中心とした諸団体との連携協力を図り、今後の海洋分野における課題解決、新産業の創出や人材の育成などの社会的要請に応えるために、2020年11月に「海洋AIコンソーシアム」を創立しました。また、卓越大学院プログラムの優秀学生に給付される教育研究支援経費だけではなく、すべての博士後期課程学生が研究に専念できるよう、本学独自の経済的支援策を早急に創設したいと考えています。
楽水会会員の皆様方からは温かいご支援を賜れれば幸甚です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
(東京海洋大学学長)
【略歴】
1960年1月 福岡県福岡市生まれ
1984年3月 九州大学工学部造船学科卒業
1989年3月 九州大学大学院博士後期課程単位取得退学
1989年4月 東京商船大学商船学部講師
1989年5月 工学博士(九州大学)
1990年4月 東京商船大学商船学部助教授
1991年5月 文部省内地研究員(東京大学工学部船舶海洋工学科)
1995年3月 文部省在外研究員(連合王国グラスゴー大学)
2003年10月 東京海洋大学海洋工学部助教授(大学統合)
2006年4月 東京海洋大学海洋工学部教授
2016年4月 東京海洋大学海洋科学技術研究科長
2020年4月 東京海洋大学海洋工学部長、附属図書館長
2021年4月 東京海洋大学長