学長退任のご挨拶
竹内 俊郎(21製大)
東京海洋大学長退任にあたり、楽水会会員の皆様方に、一言ご挨拶申し上げます。
東京海洋大学の第4代目の学長として、平成27(2015)年4月より2期6年勤めてまいりましたが、このたび任期満了となり退任することになりました。
思い起こせば、昭和44(1969)年、大学紛争真っただ中の東京水産大学製造学科(当時)に入学以来、カナダ留学の2年間と東京大学への10カ月の内地留学を除いて、学生生活および教員生活すべてにおいてこの品川キャンパスにどっぷり漬かってきて、気がつけば52年もの年月が流れたことになります。半世紀もいることになるなど誰が想像したでしょうか。
「楽水」(No,873)の「2021年 新春のご挨拶」なかでも触れましたが、私は丑年で、今年は6回目の干支男を迎え、一つの区切りの年となりました。蛇足ですが、通勤には東海道線、とりわけ「湘南ライナー」(座席定員制)を「動く書斎」のように愛用してきましたが、この3月12日で廃止されました。私の退職に合わせたかのようで、なにかしら感慨深いものがあります。
6年前の学長就任の際に大学改革を着実に実行していくために、しっかりとした将来展望が必要と考え、【第4期(2027年度)終了時に向けた“ビジョン2027”を作成し、教職員と共有すること(楽水:No.850)】および、学長のガバナンスの強化を図るため、「ヒト・モノ・カネの一元管理」を行うことを掲げました。
結果として“ビジョン2027”については、アクションプランおよびロードマップを作成して、平成27(2015)年10月から運用を開始し、その達成状況を毎年検証するとともに、3年目にはPDCAを回して見直しを行い、平成31(2019)年4月からは、「バージョン2」(https://www.kaiyodai.ac.jp/overview/president/vision2027.html) として実施しています。
アクションプラン中にある目標を遂行するため、文部科学省(文科省と略記)をはじめ、数々の機関へ事業等の申請を行い、多くのプログラムを獲得してきました。主なものを挙げると、文科省の概算要求で産学地域連携の一環として「水圏生殖工学研究所」の設置、教育・国際関連で文科省の「大学の世界展開力強化事業」、JSPS(日本学術振興会)の「卓越大学院プログラム」、研究関連としてJST(科学技術振興機構)の「未来社会創造事業」、JST-JICAによる「SATREPS事業」などがあります。いずれも本学の強みを生かした取り組みであり、今後本学の教育、研究、国際化、地域・社会連携のバックボーンを形成する重要な施設や事業になると思っています。
一方、「ヒト・モノ・カネの一元管理」についても大きな進展がありました。まず、「ヒト」では、教員をすべて「学術研究院」に配属することにより、学長が所掌する教員配置戦略会議において採用及び昇任人事を一元管理し、計画的に人事を円滑に進めるとともに、学長裁量定員ポストを確保することができました。
次に、「モノ」では、教員室、研究室及び実験室をすべて学長の管理下に置き、一定の面積を各教員に割り当て、教員がさらに教育・研究上面積を必要とする場合は、スペースチャージを取り貸し出す方式としました。これにより、教員間の使用面積が「見える化」され、不満の解消になるとともに、新規採用教員への研究室の配分を容易にすることができました。
「カネ」については、運営費交付金について、統合前からの割合で両キャンパスに配分していたものを、全面的に見直し、教員および学生一人当たりに積算した額を各学部および研究科に配分し、本部で一括管理することとしました。これにより、学長裁量経費を確保することができ、学長裁量定員ポストとともにそれらを用いて、教員および各組織へのインセンティブ付与の仕組みを構築しました。
そのほか、学外有識者に懇談会や主要委員会の委員に参画していただくことにより、広くステークホルダーのご意見を反映する仕組みを作り運用するとともに、「見える化」の推進を図りました。楽水会からは、顧問や委員として、垣添直也氏(9製大)、森 榮氏(11漁大)、田畑日出男氏(13漁大)、髙井陸雄氏(特会)、松山優治氏(16漁大)、黒岡誠一氏(18製大)、松野隆氏(21漁大)、細田昌広氏(25海工)、首藤剛氏(32海工)の各氏に学内の会議にご出席いただき、適切かつ、学外委員ならではの有益なご助言を賜り厚くお礼申し上げます。
一つ心残りで残念なのが、この1年の間、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行の影響で、学生の派遣・受入れや国際シンポジウムの開催など、国際化の推進がほとんどできなかったことです。これまで、本学の大学院生に占める留学生の割合は、全国立大学86校中の10位以内に入り、また、国際交流協定校数も、小規模大学の割には100校前後と多く、国際化は本学の一つの大きな特色だからです。
4月からは、東京海洋大学として初めてとなる越中島キャンパス出身の学長が就任することになります。両キャンパスの融和がより図られるのではないかと期待しています。まずは、令和4年度から始まる第4期中期目標・中期計画を早急に作成するとともに、2027年に向け、「海洋の未来を拓くために」を合い言葉に、一致団結して、大学をより良くしていってほしいと思っています。さらに、「after コロナ」のなかで、新しい教育や国際交流の在り方を模索し発展させていくことを願っています。
一方、本年2月に公表した本学の「ガバナンスコード」において、ステークホルダーの意見をしっかり反映させながら、学長のガバナンスをより一層強化する必要があります。また、品川キャンパスでは、今後50~70年間、一部の土地を定期借地することにより得られる収益を、キャンパス内の諸整備等、有効に役立てることを考えています。近々、新執行部によるキャンパスのグランドデザインが公表されることでしょう。ご期待ください。
これまで、楽水会会員の皆様方(個人、企業および団体)からいただいたご寄附は、学生への支援や大学運営の推進に大きく役立たせることができました。コロナ禍を含め、就学困難な学生のための「就学支援事業基金」では、今年100名以上の学生に支援を行うことができました。さらに、「グローバル人材育成支援」として学生が海外でインターンシップを体験する海外探検隊への支援、「優秀な留学生受け入れ支援」、「雲鷹丸修復事業」、図書購入のための「附属図書館整備充実」、台風や大雨で被災した館山・富浦ステーション等の「保全支援基金」などなど、有効に運用させていただくことができました。この場をお借りして、厚くお礼申し上げます。
私にとりまして、この6年間は、大変楽しくもあり、気の抜けない“時間”でした。この間、すばらしい執行部の仲間、東海 正理事(特会)、黒川久幸理事、苫米地 令前理事(特会)、稲石正明前理事、堀内 敦副学長、神田穣太副学長(特会)、庄司るり副学長、和泉 充前副学長と一緒に仕事をすることができたことは、本当に幸せだったと思っています。また、私どもの元で、一所懸命仕事をサポートしていただいた教職員の皆さんにも感謝いたします。皆さんがいらっしゃらなければ、大学改革を伴う運営はできなかったからです。
学長在任期間中、病気で1日も休むことなく勤め上げることができたのは、私の誇りです。しかし、このことが可能になったのは、私の体調をいつも考えて、すべての面で支えてくれた妻のおかげであり、いくら感謝してもし尽くせません。
最後になりますが、これまで会員の皆様方から、叱咤激励や様々なご意見・ご鞭撻を賜り、誠に有難うございました。この場をお借りして、厚くお礼申し上げますとともに、今後とも温かい目で本学を見守っていただければ幸いです。
東京海洋大学が、水産・海事・海洋の世界で唯一の、そして世界で最高の大学に発展することを祈念して、私の退任の挨拶とさせていただきます。
(前東京海洋大学学長・楽水会理事)