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2022.10.03 11:25

50代で初完走 マラソン沼にはまりました!

八田 愛(35海工)

初のフルマラソンゴール

 ホノルル指折りの景勝地ダイヤモンドヘッドを眺めることも出来ず、動いてくれない足をなんとか運び、次の給水所だけを目指して走りました。数キロごとにある給水所では、氷水をごくごくと飲み、おまじない気分でシューっと冷たいスプレーを足に噴射してもらいます。体を冷やすために浴びた水がゼッケンの下で乾かず、お腹が冷えて、へんな汗まで出てきました。
 ボロボロになりながらもたどり着いた、53歳での初マラソンゴールは、もうこれ以上走らなくてすむ!という安堵が一番大きかったです。メダルをかけてもらいTシャツを受け取っていくうちに、だんだんとうれしさと達成感が湧き上って、痛みも疲れも吹っ飛びました。スポーツドリンクをがぶ飲みしたら、どんな高級シャンパーニュよりもシアワセ気分に酔いしれました。そして極上の二日酔い三日酔いも続きます。ワイキキの街に、完走者だけがもらえる「Finisher」Tシャツを着ている人々が溢れ、レストランやお店で「走ったの?すごい!」「がんばったね」と私にもあちこちから声を掛けられます。人生最高のひとときでした。

マラソンを始めたきっかけ

 なぜマラソンを走ろうと思ったのかは、初マラソンから遡ること3年前。浅草橋の路上で、私の目の前を、東京マラソンに出た高校時代の同級生が笑顔で走り抜けた事にはじまります。同じ歳、そして運動が得意でもなかった友人が、42.195キロを完走したという説得力は絶大で、すぐに私に火をつけました。私も東京マラソンが走れるかも、走りたい!

 私はイラストレーターなのですが、在宅でパソコンに1日中向かっています。どうしても運動不足になり、人間ドックの数値も気になります。何か良いスポーツはないものかと、思案しているところでした。ランニングは、靴と少しのウエアだけあればできるし、スタジオに習いに行く月謝も時間も節約できそう!と、ひとり頷きまくりました。

 とはいえ、どうやってマラソンを走れるまでになるのかは見当もつかず、通信制大学の最終学年に差し掛かっていた忙しさもあり、ウォーキングを少ししたくらいで、マラソンは店晒しとなっていました。しばらくたった頃、「ウォーキングから始める 50歳からのフルマラソン」という本を偶然見つけました。著者は、マラソン解説でお馴染みの金哲彦さんです。その練習方法は、市民ランナー向けに工夫がされていて、週3回、少しずつ練習の強度を強め、3ヶ月の練習で、怪我なく楽しくマラソンの完走をしようというものでした。まさに私のための本です。季節はちょうど秋を迎え、絶好のランニングシーズンです。私はまずはハーフマラソンのための練習メニューに取りかかりました。20分ののんびりウォーキングから始まり、練習開始20日後にやっとジョギングが入ってくるゆるさでした。

フルマラソン完走への道のり

 練習を始めたからにはレースに出ないと面白くありません。翌年の6月に富里スイカロードレース10km走に出てみました。コース途中に給スイカ所!があり、スイカが食べ放題というお祭りレースでしたが、初レースで緊張していたので、残念ながらスイカを食べる余裕はありませんでした。ゴールの直後から筋肉痛で、まるで壊れたロボットのような情けない姿でしたが、心持ちは、その日の青空のように晴々して、乾杯のビールの美味しかったことはいうまでもありません。こんな爽快な気持ちは久しぶりに味わいました。次はハーフに挑戦だ!とテンション高く帰路につきました。 

ホノルルマラソン完走Tシャツ・メダル・シェルレイ

 それからハーフを2回走り、円形脱毛とともに大学もなんとか卒業し、ついに初フルマラソンに挑戦しよう!となりました。ミッションはたった一つ”完走”。タイムはどうでも良いのです。そして私が選んだのは、ホノルルマラソンでした。
 ホノルルマラソンには制限時間がありません。早朝5時にスタートしてから、何時間でも夜中になってもゴールで係員が待っていてくれるという、稀なレースなのです。他の大会は10kmおきくらいに制限時間が決められていて、そこに間に合わないと、バスに回収され、涙のリタイアとなってしまいます。そして、もう一つの理由は、常夏の気候なので、もし途中で歩いてしまっても、寒さで凍えることはありません。走っていればこその薄着ですので、日本の真冬の大会で足が止まったら、低体温でリタイアということにもなりかねません。ハワイの楽しい雰囲気も、緊張をほぐしてテンションをあげてくれそうです。8年もの苦労を重ねた二度目の大学卒業のお祝いという事にして、幼馴染の応援団とともに、いざホノルルに乗り込みました。そして冒頭の汗と涙のフルマラソン初完走となるわけです。

 そんな私も今年は走り始めて8年となり、ちょうど10回レースに出場しました。初フルは、5時間40分だったのが、4時間30分までタイムも更新しました。このタイムは、ランナー全体の中では、決して早いタイムではありません。とはいえ私の4時間半と男性20代の4時間半を同等に並べることはできないので、秘密兵器のエイジグレードという計算があります。そのサイトでは、違う年齢ではどのくらいのタイムになるのかをはじき出してくれるのです。私のベストタイムは、男性最盛期だと3時間14分に相当して、惜しくももう少しでサブスリー(3時間以内で完走)です。でも上には上がいらっしゃいます。今年の名古屋ウィメンズマラソンで、60代女性2名が、実タイムでサブスリーを成し遂げました。そのうち1名は60代女性の世界記録保持者です。私の目標はそれより1時間も遅いので、まだまだタイムは伸ばせると希望をもらいました。

マラソンから得たもの

華やかなホノルルマラソンのスタート

 マラソンの魅力の一つは、練習すればしっかり結果に現れるというところ。この年齢でも、目に見えて進歩がわかります。野口みずきさんは、練習は裏切らないと言っていますが、その通りです。大人になると、仕事でも何でもなかなか自分の成長が実感できません。これで良いのか?と疑問と不安を抱えながらモヤモヤとすることばかりです。マラソンの練習は2週間ごとに強度を上げていくのですが、1ヶ月もすると以前と全く違った成長した自分に出会えるのです。そんな時は、自分を誇らしく思え自信が湧いてきます。そして本番レースで目標のタイムで完走した時などは、世界を手に入れたような高揚感と達成感に包まれ、また、ずぶずぶと沼にはまっていくのです。
 もちろん、体重が減ったなど健康面でもいろいろ良いことがありました。2018年に放映されたNHKスペシャル「人体 骨が出す!最高の若返り物質」で、骨に衝撃(ジャンプやランニング)が与えられることによって、骨を作ることが促進されると知りました。そんな「骨活」は、記憶力や免疫力も上げるとのことです。そのお陰かどうかわかりませんが、骨折をしたときには、整形外科の先生が目を見張るほどの早い回復しました。膝のお皿にヒビが入りましたが、ギブスを外す前からじゃんじゃん歩き回り、1ヶ月半後にハーフマラソンを走ってしまいました。

 でもランニングを始めて一番良かったことは、自由を手に入れた事です。歩くことが億劫でなくなったので、美術館も見たいだけ粘れる、もう1軒回りたい買い物も躊躇なく行ける。アクセスの悪い場所もバスを待つ事なく歩いて行ける。若い時よりも、ずっと自由に動き回れるようになりました。これは素晴らしい贈り物です。

 次の目標は来春の東京マラソンです。もうしばらくはマラソン沼にはまっていようと思います。

(イラストレーター)

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