団塊の世代、異次元からのマイワシ資源変動の謎を追う(第5回)
爲石 日出生(20漁大)
(1)地球流体核と地磁気
マイワシの60年もの長周期と世界規模で周期と位相が一致することに関して、地球儀を 見ながら、地球表層科学より地球内部科学の方がこの地球規模の現象を説明するためには、要因として良さそうと思い、地球で唯一残されていました流体である地球流体核を検討することにしました。地球流体核は地下2900㎞も内部にあるので観測することはできません。この流体核の変動を指標として示したのが、地球自転速度変化でした。これとマイワシの漁獲量との相関が高いことが分かりました。
実は、地球流体核の変動の指標がもう一つあるのです。それは地球磁場強度(地磁気)の変動です。ご存じのように地球は磁石です。その中で流体核が動き(力の変化)によって、フレミングの左手の法則で電流と磁力に変化が起きます。地磁気は、地球磁場観測所で観測されています。地球磁場強度変動(地磁気)により地球流体核変動が推察できるのです。
この地球磁場強度の変動指数(地磁気変動指数)とマイワシ漁獲量及び資源量との間に、負の相関があることが分かりました。これはすごい発見で、将来的にマイワシ資源が古地磁気学を利用して、数十万年単位で過去のマイワシ資源変動を追えるのです。当然ながらマイワシ資源量変動は地球流体核が影響している可能性がますます高まりました。
(2)地球地磁気変動(地磁気モーメント指数:index GEOM)とマイワシ資源量(漁業生産量・SSDR)変動との相関
地磁気モーメント指数(index GEOM)とマイワシ漁獲量(資源量:SCV)1910~2010年までの変動傾向、および1840~2010年までのマイワシ鱗堆積量指数(SSDR)の傾向を示しました。これによるとindex GEOMの磁気モーメント指数が小さくなる傾向(地磁気が弱くなる傾向)を示した時期には、マイワシの漁獲量および鱗堆積量指数は増加する傾向がみられ、逆に磁気モーメント指数が大きくなる傾向(地磁気が強くなる傾向)を示した時期には、マイワシの漁獲量および鱗堆積指数は減少する傾向を示しました(図1)。
さらに、地磁気モーメント指数とマイワシ資源量との回帰分析を行ったところ、地磁気モーメント指数とマイワシ漁獲量(資源量:1910~2010)変動は有意な相関を示しました。(決定係数R² =0.243,p=1.61E-07<0.001)、その相関式は、y = -10386x + 789360(ただし、xは地磁気モーメント指数、yはマイワシ漁獲量)でした。また、地磁気モーメント指数とマイワシ鱗堆積量指数(SSDR:1840~2010)でも有意な相関を示しました。(決定係数R2=0.394,p=4.029E-20<0.001)。その相関式は、y = -0.4942x + 61.231(ここで、xは地磁気モーメント指数、yはマイワシ鱗堆積指数)を示し、両者ともに負の相関でした(図2)。
さらに、地磁気モーメント指数とマイワシ資源量との回帰分析を行ったところ、地磁気モーメント指数とマイワシ漁獲量(資源量:1910~2010)変動は有意な相関を示しました。(決定係数R² =0.243,p=1.61E-07<0.001)、その相関式は、y = -10386x + 789360(ただし、xは地磁気モーメント指数、yはマイワシ漁獲量)でした。また、地磁気モーメント指数とマイワシ鱗堆積量指数(SSDR:1840~2010)でも有意な相関を示しました。(決定係数R2=0.394,p=4.029E-20<0.001)。その相関式は、y = -0.4942x + 61.231(ここで、xは地磁気モーメント指数、yはマイワシ鱗堆積指数)を示し、両者ともに負の相関でした(図2)。
図1 (a)マイワシ漁獲量と地球磁場強度指数の経年推移(1910~2010)
(b)マイワシ資源変動と地球磁場強度指数の経年変化(1840~2010)
図1-(a),(b) ともに負の相関であることが分かる。
GEOM: geomagnetic intensity
SCV:Japanese sardine catch volume
SSDR :Japanese Sardine Scale Deposition Rate
(3)マイワシ資源量とミランコヴィッチ・サイクルとの関係及び珪藻温度指数との相関
図3 は77万年前からの双極子モーメント指数からマイワシ資源量指数(縦軸右側の目盛)を推定し、図示したものです。マイワシが地上に誕生した時代(約300万年前;浅沼ら,2001)は、鮮新世後期の水温の高い温暖期であり、この時代は温暖種珪藻類が多く餌生物環境と共にマイワシの発生に適した時代であったと推察されます。すなわち、水温の温暖化と珪藻の温暖種が多い時代であり、マイワシ資源が多くなっていた可能性は高いのです。1万年単位の時間スケールのマイワシ長期変動においては、自然環境要因として珪藻温暖種があり、これが多い時代にマイワシ資源は増大したといえます。このことに関して、餌条件として珪藻温暖種が効いたのか、温暖性の気候や水温がマイワシの増大に影響したのかは不明です。いずれにしても、マイワシ資源の増大をもたらした珪藻温暖種の増加に関しては、現在の段階で把握可能な珪藻と水温の二つの要因として推定されます。
さらに、 ミランコヴィッチ・サイクル(MC:Milankovitch cycle)の離心率との相関も有意であり、離心率の増加に伴う日射量の増加(光子エネルギーの増加)と黒潮水域の水温値と共に珪藻温暖種の増加の二つの要因と関係している可能性が高いことが示唆されます。その指標としてはDTIK(diatom temperature index in Kuroshio)があり、マイワシ資源の増加はこの指標の増加を意味しています(Koizumi,1985)。定量的な統計解析結果として、決定係数(寄与率)では 推定マイワシ資源量(SSDR)と日射量(光子エネルギー量)変動を示すミランコヴィッチ・サイクル(MC)の離心率との間には、決定係数R2=0.213(p=4.477E-05<0.001)を示し、有意な相関が認められました。なお、ミランコヴィッチ・サイクルの離心率は、太陽の周りを公転するときの楕円性の強度を示し、離心率が大きいとき楕円の扁平が強くなり、地球が太陽に接近する時間帯が長くなるので日射量の増加を意味しています。
推定マイワシ資源量は、その資源量増大期とミランコヴィッチ・サイクルの離心率の増大期とがほぼ一致しています。さらに、地磁気とミランコヴィッチ・サイクルが10万年周期であることが分かっています。推定マイワシ資源量の変動周期もミランコヴィッチ・サイクルの離心率と相関することから、10万年周期の可能性が推察されます。このように、太陽の光子エネルギーの影響で原子核と電子との関係において量子論的な捉え方の可能性に関しては、今後の研究が待たれるところです。
図3 マイワシ鱗推定資源量変動(黒実線)・珪藻温度指数(DT:灰色の実線)・
ミランコヴィッチ・サイクルの離心率変動(黒の点線)の対応図
①上段:左側が現在から右側が77万年前。下段:右側が現在で左側がBC8250年。
②上段下段共に黒実線は推定マイワシ資源量(EST-SSDR)の変動を表し、
灰色の実線は珪藻温度指数(DT)を表す。
③上段:黒の点線はミランコヴィッチ・サイクルの離心率の変動を表す。
④上段:推定マイワシ資源量とミランコヴィッチ・サイクルとの相関は、
決定係数R²=0.237,p=7.15E-06<0.001と有意な相関。
⑤下段:推定マイワシ鱗堆積量と珪藻温度指数変動との相関は、
決定係数R²=0.6594,p=2.01E-48<0.001と有意な相関。
(爲石・八木,2023)