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2018.01.05 13:43

平成30年新春に際してのご挨拶

東京海洋大学学長 竹内俊郎(21製大)

楽水会会員の皆様方へ
 会員の皆様,明けましておめでとうございます
 平成30年新春に際し一言ご挨拶申し上げます
 昨今,異常気象に伴う海水温の上昇などにより,特に台風の威力が増し,各地で大きな被害が発生しました。全国各地で被災された会員ならびに関係者の皆様方に心からお見舞い申し上げます。
 本学でも台風21号により,品川キャンパス内の倒木,館山ステーション(坂田)の採水管の破損,江ノ島に係留してあったヨット部の艇が1隻行方不明,6艇の船体に傷がつくなどの被害がありました。

昨年の特記事項
 本学における昨年の特記事項として二つほどお話しします。
 一つ目は,新学部の開設を上げることができます。昨年の「新年のご挨拶」にも書きましたが,統合後14年目に新たな学部が新設できました。これで本学は3学部体制となりました。一方,大学院につきましては,従来どおり1研究科ですが,学部から大学院まで一貫して学べる体制に移行し,6年一貫教育を視野に入れた枠組みを構築しました。来年には大学院の海洋資源環境学専攻の学生が,3年後には新学部,海洋資源環境学部の海洋環境科学科と海洋資源エネルギー学科の学生が卒業・修了することになります。これらの学生の就職する場をしっかりと確保しなければなりません。さらに,大学として新産業創出に向けた取り組みも強化したいと思っています。そのためにも,水産,海事の枠を超えた,オール海洋大での後押しがぜひとも必要です。同窓会としてご理解とご支援を賜りたいと思います。
 二つ目としては,快鷹丸遭難110周年にあたる昨年,同窓会とともに慰霊碑に参拝したことです。この件に関しては,メールマガジン(第101号)に松野事務局長が詳細をお書きいただいておりますので,簡単に報告します。本学から,神鷹丸の実習に合わせ専攻科進学予定の4年次生21名,林船長をはじめとした乗組員,佐藤海洋生命科学部長とともに,浦項を訪れ献酒および花束を手向けてまいりました。地元の皆様方との交流も図り,短時間でしたが和やかな時を過ごしました。今後も5年あるいは10年毎の節目に参拝できればと思っています。先方からも,今後もしっかり慰霊碑を守っていくとの心強いお言葉をいただきました。

業務実績の件
 第3期の中期目標中期計画(中目・中計)がスタートし,今年で3年目となりますが,初年度,平成28年度にかかわる業務の実績に関する評価結果(平成29年11月21日公表)が出ましたので,その結果をご報告します。
 本学の第3期中期目標期間においては,「教育では,豊かな人間性,幅広い教養,国際交流の基盤となる幅広い視野・能力と文化的素養を有し,海洋に対する高度な知識と実践する能力を有する人材を養成するとともに,研究では,海洋科学技術に関わる環境・資源・エネルギーを中心とする領域と周辺領域を含めた学際的な研究を推進することを基本的な目標」として鋭意努力しているところです。その結果,平成28年度の「業務実績に関する評価結果」では,「業務運営の改善および効率化(12事項)」,「財務内容の改善(7事項)」,「自己点検・評価及び情報提供(6事項)」,「その他の業務運営(9事項)」の四つの目標(34事項)すべてについて6段階評価の上から3番目の「順調に進んでいる」と評価されました。この評価は,第2期までの5段階から6段階に,すなわち「特筆すべき進捗状況にある」,「一定の注目事項がある」,「順調に進んでいる」,「おおむね順調に進んでいる」,「遅れている」,「重大な改善事項がある」となりました。本学は平均以上の評価ですが,1項目ぐらい少なくとも「一定の注目事項がある」が欲しかったなというのが感想です。
 全体として評価された点は,上述の目標の達成に向け,「学長のリーダーシップの下,国際通用性を高めるため,海洋科学部において4年次の進級要件にTOEICスコア600点を設定し,英語学習スペースの整備やe-learningプログラムの導入による英語学習の強化を図っているほか,「産学・地域連携推進機構東向島オフィス」を開設し,同オフィスを中心として地方の水産業関係者と東京の飲食業関係者を結ぶネットワークを構築するなど,「法人の基本的な目標」に沿って計画的に取り組んでいることが認められる」とされた点です。具体的には,
⃝戦略性が高く意欲的な目標・計画の取組状況
 国際競争力の強化に向けて,学生交流協定を締結している上海海洋大学(中国)と大学院修士課程でのダブル・ディグリープログラムを,フリンダース大学(オーストラリア)と大学院博士課程でのダブル・ディグリープログラムをそれぞれ締結している。また,平成28年度より,海洋科学部において4年次への進級要件としてTOEICスコア600点を適用し,e‐learningプログラムや英語学習スペースの整備等を行った結果,3年次生の平均スコアが650点となり,3年次生の97.5%が進級要件を満たす高い達成率となっている。
⃝科研費獲得額の増加
 外部資金獲得の高い実績を有する教員等によって組織される専門チームによる申請書等の事前添削や研究費の支援といった取り組みの結果,科研費の獲得額は約3億3,000万円(対前年度比約14.2%増)となっている。
⃝水産資源の地産都消に向けた支援
 海産物の産地と消費地を結ぶ場として,「産学・地域連携推進機構東向島オフィス」を開設し,大学および地域企業との共同研究を実施するとともに,同オフィスを中心として気仙沼信用金庫と東京東信用金庫が連携し,地方の水産業関係者と東京の飲食業関係者を結ぶネットワークを構築することで,水産資源の地産都消に向けた支援を実施している。
 などが,“注目される”とされました。これらの評価を踏まえ,本年はより積極的に各事項について取り組み,成果を出していく所存です。

今年の課題
 今年の課題は,これまで実施してきましたガバナンス改革の確実な推進だと思っています。昨年,教員人事の一元化の基での教員配置戦略会議の開催,全学のスペースに対する再配分やスペースチャージの実施,予算の組み替えによる一元管理の実施など,スピード感をもって行ってきました。昨年に引き続き今年もそれらの実質化を図ります。また,学長主導のもと,シンクタンク機能をもたせた経営企画室に設けたいくつかのチームのうち,混住型新寮等検討チームから,具体的な混住寮建設の提案が出てきましたので,学内の土地運用に関するビジョンを作成しながら,進める所存です。また,教職員の宿舎として私もお世話になりました神奈川県藤沢市にある「藤が岡宿舎」については,この3月をもって廃止しますので,その後の土地の利活用を含め,本件についても早急に結論を出していく予定です。

図1 教員一人当たりの運営費交付金による             研究経費の額(直近3ヵ年度の推移)※

 教育では,平成28年10月に上海海洋大学,韓国海洋大学校および本学との間でスタートしましたオケアヌス事業(日中韓版エラスムスを基礎とした海洋における国際協働教育プログラム)の推進を図ります。本プログラムは大学4年次から修士(博士前期)課程のトータル3年間のプログラムで,教育の質の国際同調性を意図したもので,今後中国,韓国のみならず,ASEAN諸国の海洋系大学をも包括したネットワーク作りを本学がその中心となって推進していく所存です。教育の質保証,すなわち内部質保証は第3サイクル目に入る機関別認証評価の重要な項目の一つと位置付けられており,この推進が大学評価の大きな要となりますので,心して取り組んでまいります。
 研究では,科学研究費補助金(科研費)の獲得額が平成29年度は約4億8000万円と5億円に迫る順調な伸びとなっています。国からの運営費交付金が法人化当時に比べ10%以上削減され,自由な発想のもとで行える研究費が削減されたなか(図1),何とか科研費の獲得額を増やせたのはよかったと思っています。今後も,他の外部資金を含め獲得額増加に向けた取り組みを行います。
 その他として,本年11月29日に品川キャンパス海洋生命科学部と海洋資源環境学部の前身であります大日本水産会水産伝習所創基130周年となります。この件については,3年前に越中島キャンパスの海洋工学部が私立三菱商船学校創基140周年の記念行事を実施していますので,学部レベルでの行事を行っていただくことにしています。
 
今後の国立大学についての所感
 昨今の国立大学を取り巻く状況について所感を述べておきます。世界のなかで,日本のみが研究論文数の増加が見られず,タイムズハイヤーエデュケーション(THE)の大学世界ランキングも日本の大学は下落傾向にあります。これらの原因は評価のための書類作りに教員が忙殺され,研究する時間が減少していること,運営費交付金の減額に伴い,研究費の減額のみならず若手研究者を雇用する人件費も削減されていることなどがあげられます。このことは,博士後期課程に進もうとする学生の減少を助長しています。このままの状態が続くと,研究の質の低下および量の減少のみならず,日本は技術大国のレッテルを返上せざるを得ない状況に陥ります。ノーベル賞受賞者も激減することでしょう。財政状況が非常に厳しいなか,改善に向けた取り組みは必須です。
 このような現状にさらに追い打ちをかけようとする動きがあります。教員養成課程を有する大学を中心に,大学の統合や吸収合併,1法人複数大学(アンブレラ)方式の推進などが謳われています。今後はその他の国立大学にも波及することは必須です。本学は二つの大学が統合し,しかも唯一大学名まで変えた大学です。この14年間,統合により大変苦労してきました。その間の時間の浪費はいくばくか計り知れません。第4期の中目中計の終了時,すなわち,2027年までに本学はまた新たな選択をしなければならない場面が出てくるかもしれません。それまでに,“力”,すなわち,教育,研究,国際交流および社会貢献などあらゆる分野での力を蓄えておく必要があります。そのためには,大学院の充実が一つの柱になってくるでしょう。時間はあまりありません。教職員一丸となって取り組んでまいる所存です。

寄付について
 最後に,いつものことですが寄付のお願いをいたします。昨年,基金体制について大幅な見直しを行いました。事務組織として基金渉外課を設置し,本格的に寄付金集めをする体制を整備しました。特に,税法上の優遇措置(所得控除と税額控除の選択制)が利用できる修学困難な学生に対する支援「修学支援基金」を柱とし進めています。昨年3月までの初年度に1500万円の目標をほぼ達成し,修学支援が必要な学生15名に半期分の授業料のその約半額に相当する10万円を奨学金として,それぞれ各期毎に給付する体制を整備し,実行しました。
 今後は,日本人の海外留学やインターンシップ,留学生の修学支援のための基金をお願いする所存です。このように本学では積極的な基金の確保とその運用に取り組んでおります。この点ご理解いただき,「東京海洋大学基金」,特に「修学支援基金」へのご寄付をお願いいたします。下記にお問い合わせいただければ幸いです。
 https://www.kaiyodai.ac.jp/overview/kikin/shugakushien.html 
 電 話:03—5463—2014または4279 E-mail:ef-kikin@o.kaiyodai.ac.jp
 なにとぞよろしくお願いいたします。

おわりに
 今年は明治維新から150年。本学は時代の波に翻弄されながら,大きく変容しています。しかしながら,本学はこれまでの伝統を継続し,国・地方公共団体や産業界への人材育成に力を注いでいくことに変わりはありません。引き続き,世界を見据え,世界に通用する人材育成を積極的に進めます。会員の皆様方から温かい目でのご意見ご批判等をいただくことで,本学のさらなる発展に役立たせたいと存じます。新年にあたり,本学の状況と今後の方向性などを述べさせていただきました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

※本表には,「科学研究費補助金等」,「受託事業」,「共同研究」,「受託研究」は含まれていません
図1 教員一人当たりの運営費交付金による研究経費の額(直近3カ年度の推移)

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