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2018.03.05 15:54

アンコウ二題

幡谷 雅之(15増大)  

 アンコウといえば、白身のさっぱりした鮟鱇鍋を思い起こす。

日本で食用とされるのは、主にキアンコウ(ホンアンコウ)とアンコウ(クツアンコウ)の二種で、アンコウ目アンコウ科に属する。両種は別の属に分類されているが、外見はよく似ている。体は暗褐色から黒色で、やわらかく平たい。頭が大きい。砂泥状の海底に生息し、手足のように変形した鰭(ひれ)で海底を移動する。

一方チョウチンアンコウは、アンコウ目アカグツ亜目チョウチンアンコウ科に属する魚類の一種。丸みを帯びた体型と、餌を誘うために用いられる、釣り竿に似た頭部の誘引突起(イリシウム)を特徴とし、深海魚として比較的よく知られた存在である。

ヌルヌル、グタグタで顎元だけが頑強なアンコウを調理するには、大口を開けて下顎に縄を通して梁(はり)や軒(のき)桁(げた)にぶらさげ、大量の水を口からドクドクと注ぎ込む、『吊るし切り』という方法をとらなければならない。この吊るし切りで、限りなく水を飲むところが、呼び樋の別称、鮟鱇の鮟鱇たるゆえんである。

建築用語に鮟鱇というのがある。この場合はチョウチンアンコウではなく、食用とされるアンコウ(またはキアンコウ)のことを指す。

屋根に降った雨水は屋根の縁を水平に走る軒(のき)樋(とい)に流れ、そこから隅柱に沿った縦(たて)樋(とい)(竪樋)を通って敷地外に排水される。軒樋から縦樋へと移行する部分には、漏斗(ろうと)状の金属板の細工物を設置する。それを呼び樋といい、通称を「鮟鱇」という。

鮟鱇は、樋がトタンや銅板で作られていたときには必需品であり、錺(かざり)職人の腕の見せ所だった。最近ではガルバリウム鋼板やステンレス製の樋になり、軒樋から縦樋に直結するようになって、見かけることが少なくなったが、日本建築にはぜひ残しておきたいものの一つである。

ちなみに、竪樋の円筒をところどころで外壁の柱からサポートする金具(掴(つか)み金物)を「でんでん」という。子供の玩具「でんでん太鼓」に形が似ているところから、この名が付いた。

アンコウは安航(安全航行)に通じ、豪華客船「飛鳥Ⅱ」では、ゲンを担いでディナーには必ずアンコウのワイン蒸しが出るという。

アンコウの漁獲量は、比較的短い周期で局地的な増減があり、2000年代の茨城県内の漁獲量は増加傾向にある。また、2000年代には日本各地で漁獲されるようになり、2010年代においては下関市が漁獲量日本一とされる。東日本では青森県の漁獲量が一番多い。

青森県下北郡風間浦村では毎年60トンほどのアンコウが水揚げされる。これは東日本で最大のアンコウ漁獲量を誇る青森県内でも二番目の多さである。 全国でも珍しいアンコウの刺身を食べることができるのは、風間浦村の漁場条件の良さと、老舗アンコウ料理店直伝の活締め技術があるから。その価値が認められ、アンコウとしては初の地域団体商標に登録されている。 地元ならではの新鮮さは、風間浦村に訪れた人しか味わえないとっておきの味である。

青森県は東日本随一の水揚げを誇るが、同県下北郡風間浦村では「風間浦鮟鱇」としてブランド化されている。ここでの調理法は「吊るし切り」ではなく、雪の上に台を作りその上でさばく「雪中切り」という方法である。雪の上でアンコウのぬめりをとり鮮度を保ちながら、七つ道具と言われる身、ヒレ、皮、アゴ肉、卵巣、胃袋、肝に切り分ける。毎年冬の時期には「風間浦鮟鱇まつり」が開催され、下風呂漁港内の特設会場では、アンコウ汁やアンコウ寿司などが販売され、「雪中切り」の実演もある。

ところで、風間浦村といえば、活イカ備蓄センターの20メートルの常設コースで行われる「元祖烏賊様レース」で有名であり、村内の下風呂温泉は本州最果ての名湯として、その熱い湯が長く漁師たちに愛されて来た。

 

 

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