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2019.06.05 13:36

水産政策の改革~浜で頑張る漁業者の皆様を応援します~

井貫晴介(23増大)

 昨年12月8日未明、参議院本会議で、入管法改正と同時に漁業法改正が成立、12月14日に公布された。
現在、2年後の施行に向けて、水産庁が都道府県や業界等と意見交換しながら、必要な政省令や関連通知の内容を詰めている段階である。

 表題は、水産庁のホームページにもあるパンフレットの題名。
今回の漁業法の改正条文を大雑把にいえば、「TAC法(海洋生物資源の保存及び管理に関する法律)を合体させ、IQを導入した。海区漁業調整委員会の選挙を廃止して公職選挙法の準用を無くした。漁業権の優先順位規定を廃止し、民主化目的を無くした。」となる。
 以下に、パンフレットに沿って中身を紹介し、※で若干の筆者のコメントを記す。

1 TAC管理とIQの導入 

 ・TAC(漁獲可能量)対象魚種を漁獲量ベースで8割を目標に増加させる。資源調査を充実させ、科学的
  資評価を行う。       

 ・限界管理基準(乱獲を防ぐための基準)を下回った場合には、目標管理基準(MSYを達成可能な資源水
  準)への計画的回復に取り組む。

 ・一部の大臣許可漁業を手始めに、特定の魚種、漁業種類、操業区域の区分で船舶毎のIQ(個別漁獲割当
  て)を導入する。

 ・IQは大臣の認可を受けて船舶の譲渡とともに限定的に移転できる。年間漁獲量のうち大半がIQによる場
  合は、船舶の規模は制限されない。

※ 資源調査は国立研究開発法人水産研究・教育機構が主体となるが、工夫しないと予算・人員が足りない
  のでは。また、どこまで科学的かつ説得力のある評価が可能か。
  クロマグロTACでの苦労が活かされることを期待する。

2 漁業権の優先順位の撤廃

 ・共同漁業権は従来と変わらず、漁協又は漁連にのみ免許される。

 ・定置漁業権及び区画漁業権は、免許の優先順位を無くし、「既存の漁業権者が水域を
  適切かつ有効に活用している場合は、その者に優先して免許」し、それ以外の場合
  (漁業権の新設等)は地域の水産業の発展に最も寄与すると認められる者に免許する。

 ・「適切かつ有効」とは、過剰な漁獲を避けて漁業を行いつつ、将来にわたり漁業生産
  力を高めるように活用することを意味する。

 ・知事は海区漁場計画を定め、区画漁業権については、団体漁業権と個別漁業権の別を
  あらかじめ決めておく。

※ 技術的助言を出すとしているが、法的に優先順位が決まっていたものを抽象的な規定にしたので、
  都道府県担当者としては、国の責任を都道府県に押しつけられたと感じるのでは。
  最近は漁業調整担当のベテラン職員は少なくなっているので、運用にあたり混乱が生じなければ
  よいが。
  特に、知事個人の意向がごり押しされた実例があるので、系統組織の警戒感を解消するのは困難では。

3 沿岸漁場管理制度の創設

 ・漁協等が海区漁場計画に基づき、保全活動漁場ごとに申請して、知事から沿岸漁場管理団体として指定 
  を受ける。

 ・認可された沿岸漁場管理規程に基づき漁協等が保全活動を実施、構成員以外から協力金を徴収できる。 

※ 筆者にはよく分からない。従前の漁場行使料や協力金で支障があったのだろうか。

4 罰則の強化

 ・特定水産動植物(ナマコ、アワビ等を想定)の密漁、密漁品の買取の罪を創設し、3年以下の懲役又は
  3千万円以下の罰金とした。

 ・無許可漁業の罰金を200万円以下から300万円以下に引き上げた。

 ・漁業権侵害の罰金を20万円以下から200万円以下に引き上げた。

※ 従来、ナマコやアワビの密漁は、親告罪の漁業権侵害20万円以下の罰金と漁獲物及び漁具・漁船等の
  没収までであった。今後、特定水産動植物に指定されれば、親告罪ではなくなり、かつ最高の罰則と
  なったので、密漁の抑制が期待される。
  一方で、密漁が巧妙化するおそれもある。警察、海上保安庁の一層の活躍と、漁業監 督吏員、漁協・
  漁業者等の密漁防止の監視活動の強化が望まれる。

5 海区漁業調整委員会委員選挙の廃止

 ・従来、通常の委員会は委員15名でうち9名の漁業者委員は都道府県議会議員と同様の公職選挙法の準用
  される選挙で選出されていた。今回、選挙によらず、知事が都道府県議会の同意を得て任命することと
  なった。

 ・全体定数(10~20名)、漁業者委員の比率(過半数以上)も条例で増減可能となった。

 ・現在の委員は、平成32年8月で任期満了だが、平成33年4月から新制度とし、それまで現行委員の任期
  が延長される。

※ 前回、64海区中56海区が無投票、選挙は8海区のみとはいえ、浜の民主化の象徴であった海区漁業調整
  委員会委員選挙が廃止された。選挙人名簿の調製など選挙管理委員会の業務は少なくなったが、水産主
  務課では選任作業と議会説明が必要となった。
  また、任期が4月からとなると、系統団体の人事と関連している場合には、面倒が増えるかも。

6 第一条(この法律の目的)

※ 「漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によって」と「あわせて漁業の民主化を図
  る」という格好いい条文が無くなることは、寂しい。
  今後は、面倒な民主的手続きはほどほどにして、行政者と研究者が「科学的に管理」すると宣言してい
  るような。なお、「的確」という語を「適確」に変更していることも気にくわない。
  「的を射る」判断から「適当な」判断になってしまうのでは。

 (楽水会理事 マリノフォーラム21代表)

 

 

 

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