団塊の世代、異次元からのマイワシ資源変動の謎を追う(第6回:最終回)
爲石 日出生(20漁大)
(1)さらなる展開-銀河宇宙線とマイワシ資源変動
さて、最終回になりました。ここまでお読み頂きまして、ありがとうございます。
この研究では、60年周期と300年周期の長周期を持つマイワシ資源変動が、海洋や気候、太陽風などの短期変動では説明がつかない点が多く、地球流体核変動から派生した地球自転速度や地磁気の要因で説明がつくことが分かりました(爲石ら,2022;爲石・八木,2023)(図1)。
図1 地球流体核から地球自転速度経由でマイワシ漁獲量へのシステム図
また、地磁気強度と関係する銀河宇宙線指数も、マイワシ資源の長期変動の環境要因として充分に考えられます。相関分析では、この銀河宇宙線指数とマイワシ資源量変動との間の決定係数が、有意性の高いことが分かりました。すなわち、地球深部の地球流体核変動と関係する銀河宇宙線指数は、マイワシ資源量(SSDR)との間の決定係数として、 R2 = 0.8765、p = 2.85E-25<0.001と高い値を示し有意でした。また、マイワシ漁獲量(SCV)とは、 決定係数及び有意性においてもR² = 0.6715、p = 3.59E-14<0.001と高い値でした(図2,図3)。
マイワシ資源量(SSDR)との相関分析において、多くの環境要因で決定係数(寄与率)の大きさを比較してみましたところ、高い順に銀河宇宙線指数、地磁気指数、地球自転速度指数、PDO指数、NPP指数、NPI指数の順でした。
図2 銀河宇宙線指数とマイワシ漁獲量との相関図
GCRD:Galactic Cosmic Ray Data ,SCV:Japanese sardine catch Volum (1951~2004)
図3 銀河宇宙線指数とマイワシ資源量(SSDR)との相関図
GCRD:Galactic Cosmic Ray Data,SSDR: Sardine Scale Deposition Rate(1951~2004)
(Kuwae et al.,2017)
(2)銀河宇宙線(GCRD)とマイワシの相変異について
銀河宇宙線は46億年の地球の歴史の中で、太陽の磁気活動の弱化や地磁気の低下などで宇宙線が数倍から千倍近く増加した時期があり、この時期に生物遺伝子の重複が進み、生物の進化が大幅に加速した可能性があります(戎崎,2010)。この遺伝子の重複において生物進化を進行させるのは、レトロトランスポゾン遺伝子に由来しています。遺伝子重複などの活性は、宇宙線量の増大によって引き起こされた可能性が高いことが分かっています(Southern,1975)。また、銀河宇宙線量は時間と共に大きく変動していることが明らかにされ、この変動が分子進化理論を推進させた(戎崎,2010)とも言われています。
銀河宇宙線は、生物に対してどのように影響するかについて述べます。生物への影響とは具体的にこの研究では、銀河宇宙線によるマイワシの「相変異」への影響について考えます。「相変異」の研究の現状は、トノサマバッタの相変異についての知見が多く、中でも生態ゲノムの研究が有名です(康,2011)。マイワシなど、真骨魚類の相変異の研究は、ほとんど試みられていないのが現状です。しかし、遺伝子の構造において、ゲノム配列ではヒトとマウス等の脊椎動物の間でほとんど変化がなく(廣野,1996)、マイワシとトノサマバッタとの遺伝子配列もほぼ同じと推察されます。
一方、トノサマバッタの相変異は、バッタの体色が緑色の「孤独相」と黒色の「群生相」に変化することで知られており、この「群生相」による農業被害は世界的にも大きな問題になっています。現在、量子生物学ではゲノム配列が解読され、生物科学はゲノムやポストゲノムの段階へ発展し、大きな発見がもたらされています。その発見とは、レトロトランスポゾン遺伝子がトノサマバッタの孤独相と群生相において、差があることが発見されています。さらに、孤独相と群生相の間の差は主に神経系内に存在していることが明らかになり、レトロトランスポゾン遺伝子がトノサマバッタの相変異プロセスにおいて神経可塑性制御に関与している可能性があることを示されています(康,2011)。また、このレトロトランスポゾン遺伝子の変化はテロメラーゼの進化に近いことが分かっており、このテロメラーゼの活性においては同じ脊椎動物である魚類の体細胞内にも観察されています。また、穀物の代表でもあるトウモロコシの約60~80%がレトロトランスポゾン遺伝子の結果であり、人間のヒトゲノムでも21%がレトロトランスポゾン遺伝子であることが発見されています。
以上のように、銀河宇宙線と相変異現象は、レトロトランスポゾン遺伝子の変化に関係し、両者は繋がっていると考察されます(図4)。
図4 レトロトランスポゾン遺伝子が繋ぐ銀河宇宙線と相変異
(3)まとめ
本研究では、地磁気強度と関係する銀河宇宙線指数がマイワシ資源の長期変動の環境要因として充分に考えられる可能性が出てきました。相関分析でも、この銀河宇宙線指数がマイワシ資源量変動に対して決定係数が最も大きく、有意性も高いことが示されましたので、本研究の要約としては、以下のようになります。
- 地球深部の地球流体核変動と関係する銀河宇宙線指数は、マイワシ資源量(SSDR)との間の決定係数として、R2 = 8765、p = 2.85E-25<0.001と高い値を示し有意でありました。また、マイワシ漁獲量(SCV)とは、決定係数及び有意性においてもR² = 0.6715、p = 3.59E-14<0.001の高い値を示しました。
- マイワシ資源量(SSDR)との相関分析において、決定係数(寄与率)の大きさは、銀河宇宙線指数、地磁気指数、地球自転速度指数、PDO指数、NPP指数、NPI指数の順であり、銀河宇宙線指数はR2 = 0.8以上と極めて高い値を示しました。
- 77万年前からの推定マイワシ資源量は、日射量を示すミランコヴィッチ・サイクルとの相関分析で決定係数R2 = 213( p = 4.477E-5<0.001)であり、有意な相関を示しました。
- マイワシ資源量(SSDR)は、ミランコヴィッチ・サイクルと決定係数や有意性が高く、NPP指数で示される植物プランクトンとの相関が低いことから、マイワシ資源が増加する要因は銀河宇宙線や太陽からの光子エネルギーの影響を強く受けている可能性が高いと考察されました。
- このことは、マイワシ体内の原子核並びに電子が励起子という仮想的な粒子の影響により体内で励起状態となったと推察され、マイワシの性格が変わり資源が急増拡大する「相変異」とも繋がっている可能性が示唆されました。さらに、銀河宇宙線とマイワシ相変異現象は、レトロトランスポゾン遺伝子によって繋がっていると考察されました。
- 以上のことから、これからの水産資源学は海洋学・地球惑星科学・遺伝子学の四つの科学領域を総合的に捉える研究が重要になると考えられます。参考までに、地球流体核(外核:薄い黄色の部分で地球全質量の30%を占める)の変動を示す模式図を示します。コールドプルームにより流体核の外側に低温域の重い部分ができ、右周りの対流で沈みます。地磁気変動のダイナモ作用の始まりです(図5)。
全6回にわたりお読み頂きまして、ありがとうございました。このような貴重な機会を頂きました楽水会メールマガジンに御礼申し上げます。
さて、現在小生は、剣を学ぶ貧乏書生と言う従来から願っていました姿を楽しんでいます。これには、健康で「紺のチューニック」に、縋りついてくれています家内には大変感謝しています。
終わり