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2025.09.01 18:03

富山湾からの便り -富山県立滑川高等学校-

岡田 洋朗(50環境)

 富山県には水産科を設置する高校が滑川市の滑川高校と氷見市の氷見高校の2校あります。私の勤務する滑川高校は、普通科2クラス80名、薬業科1クラス40名、商業科1クラス40名、海洋科1クラス40名の1学年200名の県内では、中規模に分類される学校です。
 滑川高校海洋科は、全国の水産高校のなかでは小規模の学校ですが、生徒のこころに寄り添い、海洋科で良かったと思える学習環境づくりに努力しています。今回は、私の勤務する滑川高校海洋科を紹介させていただきます。

1 富山県立滑川高等学校

 滑川高校は、富山市の北東に位置し、富山県東部(富山市より東側)の生徒が多く通学しています。海洋科は、富山県水産講習所(1900年~)をはじめとし、富山県立水産学校(1941~)、富山県立水産高等学校(1948年~)、富山県立海洋高等学校(2000年~)、富山県立 滑川高等学校海洋科(2010年~)と変遷してきました。
 「水産の灯を消さない」との思いを受け継ぎ、沿岸漁業(はえ縄、ひき釣り)、資源増殖(サクラマスの栽培・養殖)、食品加工(缶詰製造)を中心に学習活動に取り組んでいます。
 実習設備は、19トン型小型実習船をはじめ、栽培施設には5.5トン水槽2基、1トン水槽2基、食品加工施設は、缶詰製造設備を有します。

2 日本海開き

 毎年5月1日に日本海開きという海洋科の行事を行っています。コロナ禍で1回中止になりましたが、今年で77回目を迎えました。3年生→2年生→1年生→全学年の順に海に入り、20m先にあるブイ(折り返し目印)を目指して往復します。水温が12~13℃の冷たい海に入るため、各学年数人しか往復することができません。中には、往復を目指す途中で水を飲み、溺れかかる生徒もいます。1年時には往復できなかった生徒が3年時には、往復できるようになる生徒もいて、生徒の成長を目にすることができる大切な行事です。

日本海開き

3 総合実習

(1)沿岸漁業実習

 滑川地先の海域で年間を通して行います。漁獲対象はアカアマダイで、ウッカリカサゴやキダイなども漁獲します。生徒たちは、自分達で獲った魚がその日の夕食になるのを楽しみに実習に取り組んでいます。

(2)サクラマス栽培・養殖実習

 富山県の郷土料理「ますのすし」の原料サクラマスの中間育成と養殖を行っています。毎年2年生が、12月に富山県水産研究所より受精卵を譲り受け、翌年5月まで育成し、1,500尾ほど放流します。また、養殖用として300尾ほど飼育し、翌年6月に水揚げし、「ますのすし」を製作します。

(3)食品製造実習

 サバの缶詰4種類(味噌煮・大和煮・リンゴソース・梨ソース)、イワシのバジルオイル煮缶詰、ベニズワイガニの水煮缶詰、レトルトパウチのイカ飯、サンマの昆布巻きを製造しています。
 サバの梨ソースは、富山のブランド梨「呉羽梨」を使用しています。また、リンゴソースもブランドりんごの加積りんごを使用しています。年間2,000缶ほど製造し、地域のイベント(ホタルイカ祭りや竜宮祭りなど)で販売し、滑川市のふるさと納税の返礼品としても扱われている商品です。

4 課題研究

(1)缶詰の製作(おいしーらおでん缶詰)

 本校に勤務する同窓生 佐藤裕子さん(49食品)が市場価格の低いシイラの幼魚に着目し、おでん缶詰を製作し、消費の拡大を目指しました。私たちは大絶賛だったのですが、中身の具材が多く、非常に手間のかかる製品であったことから、製品化が出来なかったようです。また、毎年食品製造を専攻する生徒13名ほどが1人1種類の創作缶詰を24缶作り、12月の保護者面談の時に販売します。年に1度、いろいろな味の缶詰を食べることが出来ると、保護者の方々に好評な販売実習です。

(2)ウマヅラハギの年齢査定

 富山県水産研究所の皆さんにご協力をいただき、ウマヅラハギについて調べています。ウマヅラハギの成長速度は、東シナ海よりも日本海が速いという既往知見がありました。解析手法の違いに起因する可能性も考えられたことから、富山湾で漁獲されたウマヅラハギを対象に脊椎骨を用いた年齢査定を行い、既往知見を支持する結果が得られました。令和6年度日本水産学会秋季大会高校生ポスター発表の部にて、優秀発表賞を受賞しました。

ウマヅラハギ学会発表

5 地域との連携

(1)富山県水産研究所での実習

 本校で飼育している生物がサクラマスのみであることから、他種の栽培方法などを学ぶ目的で学習させていただいています。資源増殖実習専攻の2年生の生徒約10名が毎年9~10コマ、富山県での栽培されている魚類の生態や栽培方法をはじめ、解剖実習など体験させてもらっています。

水産研究所ホタルイカ

(2)アオリイカ産卵床作成・設置活動

 地域水産関係者からの協力依頼が来るようになり、学校と地域が協力して海に関する課題解決に向けて取り組んでいます。
 滑川漁協青年部より、漁場環境の改善に一緒に取り組みませんかとのお声がけをいただき、生徒とともに楽しみながら漁場改善に取り組んでいます。投入後のモニタリングではアオリイカの産卵を確認し、目標を達成しました。

産卵床の作成

6 さいごに

昨年度は、第43回全国豊かな海づくり大会おんせん県大分大会、漁場・環境保全部門において、本校「海洋クラブ」が大会会長賞をいただきました。これも、県内水産関係者をはじめ、同窓生の諸先輩・後輩方のご助力によるものと、この場をお借りして深く御礼いたします。

在学時に教育学の影山昇先生がご講義で、「教育は愛です。」とおっしゃっておられたのを事あるたびに思い出します。年齢を重ねるごとに先生がおっしゃっていた言葉を重く感じ、自分自身を振り返っています。また、水産高校という素晴らしい就職先へ道をつないでくださった先生方に深く感謝いたします。今後も東水大の卒業生として、人の役に立てるよう日々精進してまいります。今後とも、ご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

富山県立滑川高等学校 教諭(海洋科主任)

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