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2018.08.28 13:18

食品冷凍技術の新視点

鈴木 徹(27食工16修)

1、not only freezing process but also ?

 凍結時に生成する氷結晶は、多くの場合、細胞組織の場合、物理的破壊をもたらす。このため多くの食材では、軟弱化し、時に栄養成分を含むエキス等の流出が起きる。このダメージを小さくする手法として従来から急速凍結法が利用されてきた。急速凍結を施すと食材の内部に生成する氷結晶粒が微細になるため細胞構造の破壊が少なくなる。
 しかし、昨今、凍結技術の見方に大きな変化が見られるようになった。解凍後によい品質、すなわちおいしい状態に戻すには、急速凍結技術に執着・注力するばかりでなく、急速以外の方法で氷結晶を小さくする手法、また前処理法、保管手法、また解凍手法等で、より高レベルな復元性をもたらせられる場合があることが知られるようになったことである。これはシステムとして冷凍技術を考える必要性があることを示唆している。すなわち冷凍技術の利点を最大限に利用するためには、
凍結を前提とした図1に示すように食材のハンドリング①「前処理工程」、続いて食材を-18℃以下の低温にするための技術、すなわち②「冷却・凍結技術」、さらに保管中の変化抑制のための③「保管技術」、そして解凍して喫食するまでの調理、加工工程に関わる④[解凍技術]の一連の流れをシステムとしてとらえる必要がある。

 図1に示すように、それぞれの工程には多くの技術選択枝がある。凍結設備に関してコストのかかる非常に高度な技術を利用しても他のプロセスで低コスト、低レベルであった場合、目標に到達することはできない。すなわち、コスト・人力・資源エネルギー・生産能力の制限の内で、最終消費喫食時に消費者の設定した満足度が得られるようシステムの最適解を探り、最適化を図る必要性がある。すなわち、食品冷凍技術とは要素技術に着目するだけではなく、オペレーションズ・リサーチ手法が取り入れられるべきである。
上記の考え方は、コールドチェーン全体をシステムとしてとらえて利用することに他ならない。

         図 1 オペレーションズ リサーチ手法による最適化


2、 高品質復元性をたらすための技術

すぐに実用可能な技術
1)凍結前脱水・味付け処理法

 従前から技術としては脱水シートなどを使った手法が提案されてきたが、昨今再注目されている。脱水凍結法とは凍結前に若干水分を除いて凍結する方法で、平衡凍結点温度の降下、また凍結率の減少による氷結晶量の減少を狙ったものである。肉や水産物ではある程度は効果が認められるもの産業的な普及に至らなかった。しかし,小規模,またはホームフリージングなどでは有効である。予め調味液に浸漬させて凍結することで脱水に加えて、塩分や糖分でさらに水分活性が下がり効果が増強される。近年、ブランチングできない小松菜・果実・また肉類・魚切身も、この方法、いわゆる下味をつけたホームフリージング法で利用される機会が増えている。この方法は保管中にも表面からの乾燥を防ぐ意味で有効である。

2)凍結装置の選択

 急速凍結を目指す場合、従来からエアブラスト凍結装置、ブライン凍結装置、接触式凍結装置など利用されてきた。ある程度の汎用性と表面熱伝達の効率からすると少量生産でコンパクトな装置として利用する場合ブライン凍結装置が有利である。しかし、大きな食材、パンケーキのような熱の伝わりの悪い食材は 表面熱伝達率を上げただけでは食材内部の伝熱速度を上げることは難しい難点がある。これを解決する手法は大温度差凍結法である。これも既知の急速凍結法のひとつであり、液体窒素、炭酸ガス凍結装置がその部類に入る。しかしながらランニングコストが高い難点があった。昨今、ランニングコストをおさえられる機械式でマイナス60度以下の低温を利用できる凍結装置が実用化されつつある。
いずれにせよ凍結装置を選択するにはその前後のシステムを十分考慮に入れて選択する必要がある。

3)保管による冷凍やけや酸化を防ぐ手法の見直し

 高級品であるカニ類、エビ類は産業的には凍結したのちグレーズといわれる氷の被膜を作ることで表面の乾燥を防止している。この拡張応用である氷漬け冷凍法は保管中の乾燥による酸化・油焼けを極めて抑えられる手法である。イワシ・アジ・サンマなど丸の魚や、エビ・アサリ・シジミ貝類など、またブドウなどを容器に入れ水を張って凍結する方法である。業務用では注水冷凍と呼ばれる手法として古くからエビなどで利用されてきたが、他の食品には利用されなかった。この手法は科学的には完全なるパッケージング(包装)であるといえる。すなわち、乾燥を完全に抑えられること、酸素を遮断すること、外部の温度変動の影響の緩衝効果があることが期待できる。実用的に酸化変敗しやすいイワシなど丸のままで注水冷凍することで-18℃程度の冷凍庫でも内臓、エラの色調の変化なく2~3か月保管可能である。(図2参照)
本手法の科学的原理を理解することでより多くの食材に応用が広がるであろう。調理冷凍食品においても、品物によっては可能性が期待できる。

4)解凍障害を防ぐ解凍・調理の新提案

 解凍法には普遍的手法はない。食材に種類、料理法が限りなくあるように解凍法もその食材,料理法に応じてあるといっても過言でない。しかし大きく分けて、酵素が働く食材と、働かない食材で解凍時に注意すべき点が変わる。また解凍時には避けるべき魔の温度帯が二つあると考えられる。(図3参照)①温度域で(-5~-1℃)の最大氷結晶生成帯と②15℃から40℃程度の第2の魔の温度帯である。酵素活性の残存する食材,例えば生の果物・野菜・精肉類・生鮮魚介類の場合、第2の温度帯では冷凍によって細胞組織が脆弱化しているため正常な組織内の酵素の秩序だった反応機構が崩れ、酵素的酸化による褐変、色の変化、臭いの発生、結合組織の崩壊による軟化など著しい劣化変化が起こる。すなわち解凍障害である。そのため、解凍時に食材が第2の温度帯に長時間さらされないようにしなければならない。
 
 通常、解凍を考えるとき食品中心温度がゼロ度以上になれば解凍終了と考える。その場合、中心部は第2の温度帯には到達していないが、表面の温度もそういった温度帯にならないようにしなければならない。冷凍のマグロ柵など,水道流水で解凍すると中心部が解凍されるまで表面は流水の温度すなわち20~25℃にさらされていることになる。そのため,表面の劣化が甚だしくなる.厚みのあるものほど解凍時間がかかるため,その傾向は強く表れる.表面も酵素的劣化を抑えるために温度低く保ちつつ,短時間で解凍を可能とする方法は氷水解凍である。氷を張った水 すなわちゼロ℃近くの水の中で解凍する方法である。冷凍マグロサク・冷凍鮮魚・冷凍果物など解凍後、生鮮食品として食べる目的のものはこの方法が適している。
 しかし、すでに加熱済み食材や、加熱調理冷凍食品では酵素が失活しているため特にそれほど気を使う必要はない。また加熱して食べる食品は酵素活性が残っていたとしても、第2の温度帯を短時間で通過させれば劣化を抑えることが可能である。これを達成できるのは、沸騰水中で加熱する方法、また蓋をしたフライパンで加熱するなど熱伝達を効率的に行う方法が推奨される。

 

 以上 食品の冷凍技術の新視点として執筆してきた。食品冷凍には多くの誤解が残っている。正しい認識を同窓の諸兄にいち早く理解していただき、仕事、生活に反映していただけることを願って筆をおきたい。(東京海洋大学教授)

 

 

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