35年ぶり小湊再訪~《水産生物研究会》プチ同窓会ツアー
山本真紀(35増殖)
事の発端
「小湊ツアーなんてどうかな?」
「それ、いいね!」
そんな会話が聞こえてきたのは2017年4月1日、水産生物研究会(以下、「水研」という)OB会が主催した有元貴文先生(22増大)の退官記念&感謝パーティでのこと。声がするほうを見ると、30回を中心とした先輩方が、冗談じゃなくホントに目をキラキラさせながら何やら熱心に語り合っていた。
35年前の思い出
「小湊」とは、1932年(昭和7年)に開設された水産講習所時代からの実習場のこと。1985年(昭和60年)に千葉大学へ移管されるまで、長年に渡り東京水産大学の学生および研究者が通った外房の海だ。水研や潜水部のメインフィールドでもあったが、今となっては現役学生はもちろんのこと、水産大OBでも40代より若いとご存じない方が多いことだろう。
古い…もとい歴史ある実習場だったので、施設や設備は正直なところボロボロだった。岸壁に建てられた木造の宿泊所は風が吹くとガタガタ揺れトイレや台所の壁をフナムシが歩きまわり、円筒形の実験・実習棟は鉄筋コンクリート造りの洒落たデザインではあったものの、水族館(かつては誕生寺と並んで小湊のシンボル的存在であったらしい)と称される1階はいつも水滴が垂れ、2階(実習室)の照明は暗い。その横にあった浴場施設などは、今なら保護者・学生からクレームの嵐となりそうな代物。
しかし、広大で豊かな磯は実に印象的だった。水研に入会した私も大学1年のときは月一合宿で小湊に通い、サンゴイソギンチャクのお花畑の中にミツボシクロスズメダイ
の幼魚を見つけ、その蛍光ブルーを帯びた三ツ星に感動していたものだ。ところが大学2年からは坂田実習場へとフィールド移転。小湊よりアクセスが良く施設も最新だったので、文句などをつけたら罰が当たりそうだが、小湊の海を使うことができる千葉大の学生を心の奥底からうらやましく思ったものだ。
小湊ツアー実現!
大学1年のとき6回ほど通った程度の私でさえこうなのだから、先輩諸氏の小湊への郷愁はいかほどであろう。長年に渡って水研の顧問を務めていただいた有元先生の感謝パーティの場で、小湊の思い出話に花が咲くのも当然で、「もう一度あの磯を歩きたい」「いやいや、やっぱり海に入らなきゃ」「じゃあ、いっそ小湊で同窓会はどうだ?」という流れに。水研OBには東京海洋大学の教職員の方が何名かおり、「ちょっと千葉大に打診してみよう」となった。その後、海洋環境科学部門教授・鈴木秀和先生らのご尽力により今年7月、ついに水研OB会の一部有志による小湊プチ同窓会ツアーが実現!ただし、実習場内の磯歩きは許可できるが、もし当日千葉大の学生が実習で入っている場合はスキンダイビングNGという条件だった。
日程は7月7日~8日の1泊2日。小湊実習場の近くにホテルをとり、合計16名の水研OBが集った。
内訳は28回4名、30回5名、31回2名、32回3名、35回1名、37回1名。37回のKさんは「私は小湊の海を知りません。でも、素晴らしい磯だという話は折に触れて聞いていたので、今回スキンダイビングできるかもしれないと聞いて参加しました!」と嬉しそう。
初日は軽くウオーミングアップということで、参加者の一人Iさんがしばしば通っているという実習場近くの磯で、私を含め8人ほどがスキンダイビング。初夏の名物チャガラの幼魚たちやイシダイの稚魚、大きなアオリイカ(産卵を終えてヘロヘロとなったメス)とたわむれ、「さすが外房!」とスキンダイビング組が年甲斐もなくはしゃぎまわっている間、陸組は釣りや昼寝を楽しむ者あり、潮の香りを肴に軽く宴会に突入する者あり。
「そういえば今日は7月7日。昔は七夕コンパで盛り上がったなぁ」などと思い返していたところ、その晩はホテルの部屋で先輩諸氏が学生時代に戻ったかのようなはしゃぎっぷり。
そして鈴木先生からの「明日の小湊、学生さんはいないのでスキンダイビングもOKとなりました!」という一言でさらにヒートアップ。さすがに翌日は海に入るので日付が変わる頃にはお開きとなったが、磯歩きオンリーだったら明け方まで続いたかもしれない。
現在の小湊
そして翌朝、いよいよ小湊実習場。門構えは昔と変わっていないようだが、一歩入ると砂利道だった小道がきれいに舗装されている。岸壁に建っていた宿泊所や事務所は跡形もなく、実験棟があった場所には千葉大学バイオシステム研究センターの立派な建造物。磯に降りると右手に「禁漁区」の注意書きがあるのは昔と同じ。書き直されたもののようだが、なぜか懐かしい。海の中は…正直ちょっと残念な印象。思い出が美化されすぎていたのかもしれないが、イソギンチャクのお花畑は消えており、輝いていた奥の磯は落石のため浅いゴロタの海底と化していた。魚影も少ない。それでも、岩礁の亀裂をのぞけばイセエビの触角が何本も並んでいたし、豊かな磯であることは確かなのだろう。だいたい、この広い磯をたった数時間のスキンダイビングで判断できない…となれば、また行ってみたいじゃないか小湊の海。
というわけで先輩の皆様、ぜひまた小湊ツアーを企画してくださいね。
(マリンダイビング編集ライター、『樂水』編集委員)